【こたつと桃鉄】

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【こたつと桃鉄】

・ ・【こたつと桃鉄】 ・  大晦日も開けて、今は元旦といったところだろうか。  悠馬との桃鉄は佳境。  勝手に定めた二十年決戦も残り一年だ。 「もう一年終わったか」  ポツリと呟いた悠馬。  いや、 「タイミング的にちょうど紛らわしい。ここからスタートだよ」 「桃鉄の話だよ、文脈で分からんかねぇ」  そう言って無いアゴヒゲを触るように言った悠馬。 「文脈でねぇ、文脈でねぇ」  何か連呼しているな、というか、 「悠馬、もう学者っぽい語彙が浮かばないんだろ」 「……五位? いや桃鉄は最低でも四位なんだよ」 「その五位じゃなくて、ボキャブラリーという意味の言葉だよ、語彙は」 「それ、ローカルルールじゃないか?」 「辞書にある言葉にローカルルールとか無いから。悠馬って語彙の語彙も無いんだ」  すると悠馬は懐疑的な目で、 「いや、そのゴイって言葉が無いんじゃないの?」 「よくこっちを否定する気になったな、電子辞書今から渡すわ」  そう言って立ち上がろうとしたところで、悠馬が、 「いいよ、辞書とか眠くなるじゃん」 「そんなことないわ、辞書は枕とかじゃないから」 「電子辞書は下敷き」 「全然違うわ、もっと精密機械を愛せよ」  俺は棚から電子辞書を持って、悠馬に渡すと、悠馬は電子辞書を開いて、操作し始めた。  すると、 「俺が電子辞書イジってる時に桃鉄進めるなよ」 「悠馬の番で止まるから大丈夫」 「あとコンピュータが何カード手に入れたか教えてね」 「それはやってやるけども」  ちょっとの間。  悠馬が声を上げた。 「語彙って言葉あるんだ! 電子辞書書き換えたっ?」 「そんな財力と技術力は無いし、語彙の彙って字を当てないわ」 「ゴイゴイスーじゃん」 「しょうもなっ」  俺が吐き捨てるようにそう言うと、悠馬が、 「恥ずかしい!」  と言ってこたつの中に入った。  いや、 「そういうポーズとかはいいから、あかオニが緊急着陸カードを手に入れたぞ」  そう言ってもなかなか出てこなくて、というか、 「電子辞書をこたつの中に入れるなよ、熱でどうにかなったらどうすんだよ」  と言いながら、俺は悠馬のこたつをめくると、なんと中で熱心に電子辞書をイジっていて、 「いや隠れてゲームするみたいに電子辞書を使うなよ」  とツッコむと、悠馬はてへっと笑ってから、こたつから出てきて、 「ほら、勉強することって恥ずかしいことじゃん」 「そんなことないわ、悠馬が桃鉄ワールド買って来て『一緒に勉強だ』と言ったんだろ、全然勉強すること恥ずかしくないから」 「ちょっとスケベな単語、保存しておいたから」 「そっちのほうが恥ずかしいだろ」  俺と悠馬はまた桃鉄に戻った。
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