星降る夜に…

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いつも憂鬱になるアラーム音に起こされ、顔を枕に埋めたままスマホを操作してアラームを止めた。 「…もう朝ぁ?…あ、そうだった!」 私はパッと身体を起こして時計を確認した。針は夜中の1時を指していた。一昨日は何時にトイレに起きたなんてのは覚えてはないけれど、とりあえず夜中らしい時間にアラームをセットしてみたのだ。 私は両親や弟に気付かれないようにそっとドアを開けて廊下に出た。私の部屋は両親の寝室と弟の部屋に挟まれているので、両側に気を配られながら目の前の階段まで進み、そっと1階に耳を澄ませてみた。 1階には流星がリビングで寝ているはずだ。私はスマホの明かりを頼りに足音を立てないように階段をゆっくり降り始めた。 その時、ぼそぼそと話し声が聞こえ、私はピタリと動きを止めた。 「…順調…分かってる…。」 ハッキリとは聞こえないが、やはり男性の野太い声のように聞こえる。私は緊張しすぎて全身に嫌な汗をかき、心臓もバクバクの状態だった。 …行くしかない。 私は拳を握り、ゆっくりと階段を再び下り始めた。1段1段下りる度に心臓の鼓動が大きくなっているのが分かり、自分の鼓動の大きさでぼそぼそ声も聞こえないほどだった。1階まで辿り着くと大きく深呼吸をし、一旦精神を落ち着かせた。 「…あと1日…」 …あと1日って言った?やっぱり誰かいるのかな。 リビングの扉には曇ガラスが付いており、電気が点いていれば明かりが漏れてくるはずだが、リビングは真っ暗のままだ。 …この暗闇に誰かがいる。どうする、ゆっくりと覗くか、一気に部屋に突入するか…。 私は数秒考えた後、一気に駆け出しリビングの扉を開けて電気を点けた。 「…う、嘘。」 そこには2本足で立ったまま、私をポカンとした表情で見ている流星がいた。口元にはインカムのようなマイクを着けており、耳にはイヤホンがささっているように見えた。 「…わあああああっ!!」 我に返ったのか、流星は突然叫び後ろに倒れて尻もちをついた。 「この声、やっぱり流星。…どういうことなの。」 私は不思議と不気味さは感じなかった。これは現実なのかと自分を疑いながらゆっくりと流星に近付いた。 「わわわ、ちょっと待ってくれ。」 流星は私が何をするか不安だったようで慌てた様子だった。私は怯えた表情の流星を見て屈んだ。 「…犬ってこんなに表情豊かに出来るのね。」 流星に話し掛ける最初の一言としてはどうかと思う言葉だということは自分でも理解してるが咄嗟に出てしまったのだから仕方ない。 「…見つかっちまったか。」 流星は騒ぎ出さない私を見て安堵したのか表情を戻し、ゆっくりと立ち上がった。 「全部話しなさいよ。ていうか、何で見た目はそんな可愛いのに声はオッサンなのよ。」 「んなこと言われても俺はもう50歳を越えてる。地球人で言えばな。」 流星は自分のゲージに一旦戻ると、犬用のジャーキーを持ってきて、ソファに足を組みながら座り、スルメを食べてる人間と同じようにしゃぶり始めた。 「…あんた、いつも私らが寝静まった後にこんなことしてたのね。お母さんが最近、流星のオヤツが無くなるのが早いって言ってた理由が分かったわ。」 私も流星の横に座った。 「あんまり驚かないんだな。犬の言葉が理解できてるってのに。」 「…驚いてはいるわよ。でも、思ったほど恐怖感はないというか、全然知らないオジサンが家に忍び込んでるよりはマシってことよ。」 「ふーん。」 流星は愛想なく答えると、くちゃくちゃとジャーキーを齧り始めた。 「それよりもあんたは何なの?さっき、サラッと地球人ならって言ってたけど、まさか宇宙人とか言い出すつもりはないわよね?」 私の問い掛けに、流星は徐ろにリモコンを手に取りテレビを点けた。 「…ちょっと人の話を聞い…」 流星は私の口に肉球をポンッと押し当てて口を塞ぐとジャーキーでテレビを差した。仕方なく視線をテレビに向けると、画面が映ったり砂嵐になったりを繰り返し始めた。 「んだよ、今日は電波良くねぇな。」 流星がそう言った瞬間、画面が一旦砂嵐に切り替わりプツンという音とともにブラックアウトした。 「お、繋がったか。」 私はいつまでも口に当てられている前足をどけた。 「…何よこれ。」 画面には羽毛のようなふわふわしてる毛に全身が覆われ、クリッとした大きな目が特徴的な謎の生物の上半身が映し出された。 "●▲@☓◯!☆●" その生物は何語だか分からない言葉で話し始めた。 「■★?◯▲!●◎」 「え!?」 流星も同じような言葉を話し出し、私はギョッとした。 「今、ひなたにも分かるように地球の日本語で話すように指示を出した。」 …さりげなく私の名前呼んだ。ちゃんと分かってるんだ。 不意にも少し嬉しく感じた私は、微笑みを隠しながら視線をテレビに向けた。 "あー、えー、あ、これか。これが日本語で合ってるか?" 「あぁ、合ってるぜ、ベルゼ。」 "…ん?うわぁっ!おい、地球人じゃないか!どういうことなんだ、マルス!" …マルス? 私が流星の顔をじっと見つめていると、視線を感じた流星が面倒くさそうに口を開いた。 「あぁ、そうだよ、俺の本当の名はマルスだ。まぁ地球表記だとな。」 「さっきからさ、流星とかテレビの人の話聞いてると何か宇宙人みたいな感じがするんだけど。」 「あぁ、そりゃ俺やベルゼは宇宙人だからな。」 余りにサラッと言い放った流星に、私は呆気にとられた。
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