星降る夜に…

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「随分とあっさり薄情するじゃない。」 「もうここまでバレてたら仕方ないだろ。」 "おい、マルス、地球人にまさか全て話したわけじゃないだろうな。" ベルゼと読んでた宇宙人が怒り口調で言った。流星はジャーキーを食べ切ると肉球をペロペロと舐めた。 「安心しろ、作戦は決行だ!」 "ならば問題はない。だがな、余計なことはするなよ、マルス。自分の立場をわきまえろ。" 「はいよ。また連絡する。」 流星はそう言ってリモコンを手に取るとテレビの電源を切った。 「…何よ、作戦って。」 私は流星を睨み付けるように言った。 「宇宙人が地球に来る映画とか観たことないのか?宇宙人がこそこそと来る理由なんか1つしかないだろ。」 「…まさか、地球侵略?」 私の言葉に、流星はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 「その問い掛けをしてきたのはひなたからだからな。…いいか、絶対誰にも言うなよ。」 私はゴクンと唾を呑み込んでからゆっくり頷いた。 「俺たちは太陽系の外れにある別の銀河に住む宇宙人だ。俺たちには身体が無い。故に必ず何かに寄生しながら生きているのさ。」 「…身体が無い?」 私は理解が出来なかった。 「頭に身体、四肢があるってのはあんたらの概念だろ。俺たちは身体は無いが思考は出来る、俺たちにとっては何ら不思議なことはない。だが、俺たちの1番の弱みは寿命が短いことだ。寿命を延ばすには何かに寄生することが必要。そして、寄生する生物によってその寿命も変わってくるんだ。」 「…あなたは今、チワワに寄生してるってこと?」 「そういうことだ。俺はより寿命が長い寄生元を探す調査団に所属していてな、この地球に辿り着いたんだ。この星に住む生物の寿命は長い。俺たちの星とは時間の概念も違うからな、地球で言う2時間が本来の俺たちの寿命なんだ。それを地球に住む生物に寄生することで俺は少なくとも1年間は生き長らえた。」 私は流暢に話し続ける流星の話を頭で整理しながら聞いていた。 「…えと、つまり流星は中身だけ宇宙人で、地球に寄生するための生物を探しに来たってこと?…それは、人間も対象なの?」 「勿論だ。地球人は羨ましいよ、こんな綺麗な星で自由にしかも長生きで。」 「…何で流星を選んだの?」 「ふん、仕方なかったんだ。この星の空気は俺たちには合わなくてな、直ぐにでもこの星の生物に寄生する必要があった。それと、俺たちは一度寄生したら他の生物に乗り換えることは出来ないんだよ。…犬は寿命が10年だろ。お前ら人間に寄生したらもっと生きられたと思うと失敗したな。」 流星は笑いながら言った。 「…作戦って?」 私の質問に流星は少し間を開けると、立ち上がって窓際に行きカーテンを開けた。 「あれ見えるか?」 私は流星の横に移動し、前足で差している空を見上げた。雲一つない夜空は星が輝いて見えた。 「ん?」 その中で見間違いかと思うレベルで微かに動いているように見える星があった。 「その表情は気付いたな。あの動いてる光は星じゃねぇ。俺たちの母艦だ。今この地球に向かってきている。」 「…ほんとに侵略されるってこと?」 私は苦笑いを浮かべた。 「侵略…厳密にそれと同義かは分からんが、地球人の身体に寄生したがってるってことだ。」 「…それは流星が促したの?」 「それが俺の仕事だからな。」 流星はそう言うとカーテンを閉めた。 「寄生されるとどうなるのよ?」 「別に痛くも苦しくもない。寄生された瞬間に我を失うだけ。寄生されたことすら気が付く術はない。まぁ平和な侵略だな。」 「ふざけないでよ!!」 私が大きな声を出すと、流星は私を見つめた。 「ふざけないでよ、私の家でずっと地球侵略のスパイをしてたってことでしょ。…私や家族、友達にも寄生するつもり?」 流星は私に背中を向けた。 「…逃げろ。」 弱々しく呟いた流星の言葉を私はハッキリと聞き取れなかった。 「…ひなたに教えたのはお前たちを逃がすためだ。逃げろ。」 「…流星。でも何処に…。」 バンッ! 突然、窓ガラスが叩かれたような音がした。流星は私にここから動かないようにジェスチャーすると、ゆっくりと窓に近付き、そっとカーテンを開けて隙間から外を確認した。 「うわあああ!」 聞き覚えのある声がして、私はカーテンをパッと開けた。 「涼之介!?」 私は窓を開けた。すると、涼之介は私の腕を掴み庭に引っ張り出した。 「ど、どうしたのよ?」 「あの犬は何なんだよ!おかしいだろ、二足歩行で喋るなんて。」 「…見たの?」 「とにかく離れた方がいい!」 涼之介は裸足の私をお姫様抱っこし、走り出そうとした。 「おい、待てよ。」 流星の声で涼之介は足を止めて振り返った。 「…はは、マジで犬が喋ってる…。」 「ったく、面倒くさいことをするな。ひなた、お前はこの男が大事なのか?」 流星は開けた窓に寄りかかりながら質問した。私は抱きかかえられたまま涼之介の顔を下から見上げると、涼之介も私の目を見つめた。 「…恥ずかしいから降ろしてよ。」 私は顔を真っ赤にして涼之介の腕の中から降り立った。 「その、ありがとう、私を助けようとしてくれて。でも、流星は大丈夫、危険じゃないから。」 「…ひなた。なら、この犬は何なんだよ。」 私は涼之介を家の中へ招き入れて、流星から聞いたことを全て伝え終わると、涼之介は頭を抱えた。 「…はは、もう何が何だか。つまり、俺たちはもうじき宇宙人に乗っ取られるってことか?…なぁ、そこの宇宙人、お前たちはいつ来るんだ?何人いるんだ?」 涼之介はソファに座ってジャーキーをしゃぶっている流星を睨み付けながら言った。 「…ったく、誰にも話すなって言ったのによ。まぁ俺のこと見られちゃしょうがねぇか。…あと1日、2回目の朝を迎えた時に母艦はこの星に辿り着く。数は100億ってとこか。」 流星の言葉に私と涼之介は目を見合わせた。 「…100億って、世界人口より全然多いじゃんか。」 「あぁ、まぁ人間だけで考えたらな。他の生物でも構わないんだが、人間が1番寄生するのに適しているのは間違いない。つまりは、取り合いになるってことだ。」 流星はニヤリと笑った。
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