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「…あの涼之介という男、夜中の内に寄生されてる。あれは俺と同じように調査に来た同胞『アイン』だ。…アインは俺を捜している。」
「…何で逃げるのよ。仲間でしょ?」
ガサッ。
「◆◯?…ん?気配がするな。ここにいるのか?」
涼之介は一気に草を掻き分けながら私たちの方に向かってきた。
…見つかったらどうなるの?
ついに草の束1つ向こうに涼之介の姿がチラリと見えた瞬間、流星は飛び上がり涼之介の顔面に蹴りを喰らわせた。
「ぐわっ!いたな、マルス!」
「ひなた!走るんだ!」
私は流星に言われるがまま、流星を追い掛けながら走った。
「待て!マルス!お前もこのままだとタダじゃすまねぇぞ!」
涼之介の不思議と私たちを追っては来なかった。気が付くと、よく散歩で訪れる神社に辿り着いていた。
「はぁ…はぁ…、ねぇちょっと休ませて。」
「ちっ、人間は体力がねぇな。なら、あの下で姿を隠すか。」
流星と私は神社本殿の下に潜り込んで身を隠すように座った。
「…ねぇ、何であなたは私を助けるの?私なんて放っとけばいいじゃない。」
「…別に、俺の勝手だろ。」
「でもさ、さっきの仲間、流星のことこのままじゃタダじゃすまないって言ってたわよ。…あれはどういう意味なの?」
私の問い掛けに流星は顔を外に向けた。
「…もう隠すこともないから言うが、俺は罪人なんだ。」
「…え?罪人?」
「そうだ。故郷の星ではここで言う牢屋に入ってた。この調査団は言わば星流し、実験台みたいなもんだ。」
「そんな…酷いことを。」
流星は私の方を向いた。
「でも、俺は運が良かった。この流星という仔犬に寄生したお陰でひなたたちに出会えて、優しくして貰えた。これ以上ないくらい俺は幸せな時間を過ごせたよ。」
「…流星。」
私は自然と涙を零していた。
「景太や母と父にも感謝してる。でも、俺は1番ひなたを守りたい。俺は忘れない、体調を崩した時、ずっと傍にいてくれたことを。」
…半年前、流星がお腹を壊した時か。お母さんは大したことないって言ってたけど、私は心配で一晩ずっと隣で寝てたっけ。
「ほんとに嬉しかったんだ。俺のことをこんなに心配してくれるってことが。」
「…あんたっていうか、流星が心配だったのよ。」
私は涙を拭いながら笑った。
「ふ、ふん、俺にとっては同じ事だ。それに…」
私は流星の言葉の途中で意識を失った。
よく考えたら昨晩は1時に起きてから一睡もしておらず、どっと疲れが来たのだと思う。
「…あ、あれ。」
目覚めた時、既に辺りは薄暗くなっていた。
「嘘、私寝ちゃってた。…流星?」
私が本殿の下から這い出ると数メートル先で流星が倒れているのが視界に飛び込んできた。
「流星!?」
私が駆け寄ろうとすると、突然目の前に涼之介が立ち塞がり、私は足を止めた。
「ひなた、何で逃げたんだ?」
「…涼之介…じゃないのよね、中身は。」
「ふん、もう気付いてるのか。マルスはこの地球人の女に余計な感情を抱いてしまったのか。」
「あなたは仲間じゃないの?」
「お前がマルスからどこまで話を聞いてるのか知らないが、俺は罪人の監視役で潜入してるだけだ。マルスめ、罪人のくせに我々に反抗しやがって。お前の存在が邪魔なんだよ。」
涼之介の手を見ると鉄パイプを握っていた。
「ちょっと、涼之介は!?」
「涼之介ってのは俺の体となってる男のことか?残念だが、もうその男の人格は俺に支配されてる。」
「…そんな。」
「ふん、そんなに悲しい顔すんじゃねぇよ。どうせお前はここで死ぬんだからよ!」
涼之介は鉄パイプを振り上げながら私に駆け寄って来た。
「涼之介ーっ!!」
…死ぬの?私…。
「うるせぇんだ…」
「ひなたに何をしようとしてる!」
突然、涼之介の口から2重の声が聞こえた。
「今の声は涼之介?」
涼之介は振り上げていた手を震わせていた。
「くそっ、どういうことだ。お前はもう俺に支配されてるはずだろうが。」
「支配だと?俺はまだ俺のままだ!」
…涼之介がアインと戦ってる。
「手を下ろせぇ!」
カランカラン…。涼之介は、手にしていた鉄パイプを地面に落とした。
「このクソガキが!」
「ぐわあああああっ!」
「涼之介!?」
突然苦しみだした涼之介の声に、私は咄嗟に涼之介に駆け寄り強く抱きしめた。
「涼之介、頑張って!」
「この女、どこまで俺たちの邪魔をする気だ。」
アインに乗っ取られている涼之介が私を引き離そうと膝蹴りをしてきたけど、私は耐えて涼之介に抱きつき続けた。
「お前ら地球人は俺らに支配されるのだ!」
「…ひなたに何をしている。」
…また2重の声。
「この男、まだ…。」
「ひなたを守るって約束したんだ。俺の中から消え去れ!!」
「ぐおおお、なんだ急に燃えるように熱くなってきたぞ。…やめろ、やめろー!ぐっ…。」
涼之介は意識を失い、私に倒れ掛かってきた。
「涼之介!?」
私は涼之介を支えきれなくて後ろに倒れてしまいそうになった。
「キャッ!」
駄目だと思った瞬間、誰かが私のお尻を支えてくれて倒れずに済んだ。振り返ると、流星が必死に私の身体を押して支えてくれていた。
「ひなたぁ大丈夫か!?」
「うん、もう大丈夫よ、ありがとう。」
私は流星と一緒に涼之介を地面に寝かせた。
「…ふぅ。そういえば流星は怪我は大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない。」
「涼之介はどうなったの?」
流星は涼之介に近付き、そっと手を涼之介の胸に当てた。
「この男からアインの気配を感じない。多分、この男の強い意志でアインを排除したんだ。…地球人恐るべしだな。」
「…もういつもの涼之介の戻ったのね。」
私は安心して、その場に座り込んだ。ふと、空を見上げると昨日見た母艦の光がより大きくなっているのが視界に入った。
「流星、あれ…。」
私が流星の方を見ると、流星も空を見上げて光を見つめていた。
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