星降る夜に…

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夜中の1時、私は流星と自宅の庭から空を見上げていた。家族は既に寝静まっており、私は起こさないように静かに部屋から庭まで歩いてきた。 「…もう来るのね。」 「ほんとに逃げなくて良かったのか?」 神社の一件の後、流星は私に宇宙船に乗って地球から逃げようと提案をしてきたけど、私は断った。やっぱり大事な家族や友達、涼之介を置いてはいけないと、断ることに迷いはなかった。 ガサガサ…草を踏む音がして振り向くと、涼之介が姿を現した。 「もう体調は大丈夫なの?」 「あぁ、迷惑かけてすまなかった。」 涼之介はそう言うと、空を見上げた。 「…なぁ、宇宙人。俺たちはすぐに乗っ取られちまうのか?」 「恐らくな。俺にはもうどうすることも出来ない、すまないな。」 私はうつ向く流星の頭を撫でた。 「出来る限りのことはするわよ。地球人をなめるんじゃない!ってね。」 「予定より早い…地球人が寝静まってる時間を狙ったな。」 すると、夜空が一瞬昼間のように明るくなった。勿論、太陽光ではなく母艦から放たれる光だが、その凄まじい発光により、私は顔を背けた。 「ひなた、来るぞ。」 光が消えると同時に母艦の下部の扉が開いた。身体が無いという未知の宇宙人は、きっと姿形は見えないのだろうと私は思っていた。横に居た流星を見ると、身体を震わせながら母艦を見つめていた。 「なぁ、涼之介という男!」 流星が声を上げた。 「…何だよ。」 「お前、命張る勇気あんか?」 私は流星の言っている意味が分からなかった。問い掛けられた涼之介は私の顔を見つめながら頷いた。 「あぁ、好きな人を守るためなら命の1つくらい張るさ。」 「気に入った。なら俺の手を掴め。」 涼之介は2本足で立っている流星の前足を握った。 「ちょ、ちょっと流星、涼之介と何する気なのよ?」 「…俺はこ地球(ほし)は平和な今の姿のままでいてほしい。ひなたに優しくされて守りたいって思ったんだよ。」 「…流星。」 流星は私の目を見てニッと笑った。すると、涼之介とともにゆっくりと宙に浮かび始めた。 「わ!どうなってんだ!?」 「あの母艦の力だ。俺たちは元々身体がないからな、いわゆる空を飛ぶことなんてのは当たり前の話なんだよ。既に何人かの地球人たちが寄生され始めてるな。…母艦の近くまで行くぞ。」 「待ってよ!私も!」 私は流星のもう片方の前足を握った。 「…ったく、こういう時くらい男に任せろよ。」 「私はそういうの関係ないから。」 流星はフンッと鼻で笑うと、私と涼之介の手を繋いだまま、母艦に近付いた。 「…何にも見えないが…今既にあんたの仲間たちがこの地球に降り立ってるのか?」 涼之介が問い掛けた。 「あぁそうだ。…ん?この気配は来るな。」 「来るって…っ!?」 私は、母艦の周囲の空気が震えているように感じた。 「マルス、その地球人は儂への献上物か?」 突如、頭に響くような声が聞こえた。 「…ガロン様。」 流星は顔を強張らせていた。 「ガロン?」 「俺たちの親玉だ。下手なこと喋るなよ。ここは俺に任せておけ。」 「何をごちゃごちゃ話している。まぁ、よい。マルスをこの星に送り込んで正解であったな。良い寄生先の生物が見つかった。」 「ガロン様、そのことなんですが…、この星の生き物は我々には合わないかもしれません。」 流星は怯えた声で恐る恐る言った。 「…どういうことだ、マルス。」 「この男を見てください。この男にはアインが寄生していましたが、アインは消滅しました。」 「消滅だと?」 「はい、ですからこの星の人間は我々には…」 「黙れ!!」 私と涼之介はその声の大きさに頭が割れそうになった。 「マルス、お前は儂に逆らうのか?儂にはもう時間がないことは分かってるだろうが。…どれ、ではその女に寄生することにしよう。見たところまだ若そうで寿命もたっぷりありそうだからの。」 「え!?」 私はその言葉を聞いて固まった。姿が見えないためどう寄生されるのかが分からず何も出来なかった。 「ひなただけは駄目だ!!」 その瞬間、流星が私の前に立ち塞がった。 「ぐわあああああっ!」 「流星!?…え。」 流星は苦しそうな声を上げた。その瞬間、流星と手を繋いでいたことで浮いていられた私と涼之介は地面に向かって落下し始めた。 「ひなたぁ!」 涼之介が私の腕を掴んで自分に抱き寄せた。 「ひなたは俺が守る。」 涼之介は私を強く抱いたまま背中を地面に向けた。 「駄目よ、このままじゃ涼之介が!」 「最後くらいカッコつけさせろ。死ぬな、ひなた。」 地面が目前に迫り、もう駄目だと思い目を閉じた。 …死んだ、絶対死んだ。 …あれ? 痛くもなければ何の衝撃もない。私は恐る恐る目を開けた。 「…ッ!?」 私たちは涼之介の背中が地面スレスレのところで浮いていた。 「…これは一体どういうことだ。」 「無茶し過ぎなんだよ、あんたらもマルスもさ。」 私と涼之介は聞き覚えのある声に振り向いた。 「え?…け、景太!?」 そこにいたのは紛れもなく弟の姿だった。景太は私たちを見ながらニヤッと笑った。
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