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「もう正体明かしても問題ないだろ。こういう時のためにマルスと組んだんだからな。ほれ。」
景太が指をヒョイッと動かすと私たちは重力を取り戻し、涼之介の背中から着地した。
「いってぇ、でも助かったな。」
「ちょっと、景太…じゃないってこと?あなたも宇宙人?」
「…あぁ、俺はムサカ。マルスと一緒にこの星に落とされた囚人の1人さ。あんたの弟には悪いがこの1年乗っ取らせてもらったよ。弟の記憶を読み取りながら中々うまく演技が出来てたと思わないか。」
景太は笑いながら言った。
「ふ、ふざけないでよ。」
私は怒りよりも、景太がいなくなってしまったことに急激な悲しみを感じた。
「ひなた…。」
「涼之介は黙ってて。…私の弟から…景太から出ていきなさいよ!」
「ぐわあああああっ!」
ドーンッ!!
私が叫んだ瞬間、流星が地面に落下した。
「流星!!」
私は流星に駆け寄った。流星は相当な高さから落ちたはずなのに、ゆっくりと立ち上がった。
「…ひなた、すまない。この犬の身体はもう駄目にしちまったかもしれない。すぐに病院に連れてってあげてくれ。」
「…え?」
「それでいいんだよな、ムサカ。」
流星は景太に振り向くと景太はニヤッと笑いながら頷いた。
「俺もマルスと同じ思いだ。この地球は俺たちが手を出しちゃいけねぇよ。最後に恩返しといこうか。」
「ちょ、ちょっと何の話してんの?」
私の問い掛けに、流星は私の右手を肉球で挟み込みながら答えた。
「ひなた、俺は最初、この地球に対しては恨みしかなかった。俺が何でこんなことをしないといけないのかっていう勝手な理由だ。…でも、この1年、ひなたたちのおかげで考えが変わったよ。…俺とムサカはそれぞれの身体から抜ける。犬も弟も戻ってくるから安心しろ。」
「それって…。」
「あの母艦の中に自爆装置がある。それを押せば母艦ともども俺らも消える。」
「…どういうこと?」
「ガロンの仕業だ。ガロンはこのままでは寿命が短いことを悲観して自分が死ぬ時は全員を道連れにしようとし、科学者にその装置を作らせた。俺たちは全員ガロンの掌の上だ。…実際にガロンに掌はないがな。」
「…流星…マルスも消えちゃうの?」
私は流星の冗談はスルーした。多分、無理にでも私を笑わせようとしたんだと、肩を震わせている流星を見て思った。
「…あぁ。そもそも寄生先から強制的に抜けた時点でものの数分しか生きられない。でも、俺とムサカならやれる。」
「マルス、もう行くぞ!」
「あぁ。」
流星は私の目を見て微笑んだ。
「ありがとうな、ひなた。元気で…涼之介と幸せになれよ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
私が止めようとした瞬間、流星と景太から眩い光が放たれ私たちは咄嗟に目を背けた。光が収まり再び視点を向けるとそこには倒れている流星と景太の姿があった。
「景太!流星!」
「大丈夫、景太くんは気を失ってるだけだ。」
涼之介が景太を抱きかかえた。私は地面に倒れている流星に触れた。空から落ちた流星の身体はかろうじて呼吸をしていた。
「…ひなた、すぐに流星を病院に連れてこう。」
「あれ?うわ!凄いよ!空!空!」
涼之介の腕の中で目を覚ました景太が興奮した様子で空を指差した。私は涙を拭いながら空を見上げた。
無数の流れ星が空を駆けていた。
「綺麗だね、お姉ちゃん、涼之介兄ちゃん。」
「あぁ、まさに星降る夜だな。」
涼之介はそっと景太を下ろした。
あの無数の流れ星の1つがマルスなのだろうか。私は悲しいはずなのに、心が温かくなった気がした。
きっと私と涼之介以外、この地球が危機に陥っていたことも、それを救ったマルスたちのことも知る由もないだろう。
あと数時間後にはいつもと変わらぬ朝が来て、変わらぬ日常が始まっていく。
でも、私は忘れない。今、私が私で居られるのはマルスがいたからだということを。
私は流れ星を見ながら涼之介の手をギュッと握った。
- fin -
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