星降る夜に…

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「いいか、絶対に誰にも言うなよ。」 その言葉の先には信じられない内容が続き、私は理解が追いついていかなかった。ただ、このまま何もしなければとんでもないことになることだけは理解できた。 …私は一体どうしたらいいんだろ。 それは、2日前に遡る。 高校2年生の私、日向(ひゅうが)ひなたは、両親と小学5年生の弟の景太(けいた)と4人家族で、ごく普通の家庭、ごく普通の幸せに包まれながら過ごしてきた。 「ワン!」 それともう1人、いや1匹の家族がチワワ犬の流星(りゅうせい)だ。景太が1年前に河原で弱っている仔犬を見つけて拾ってきたのだが、その日はさそり座流星群が綺麗に見れた日で、流れ星が仔犬の願いを叶えたのだろうと、流星という名前を私が付けたのだ。仔犬だった流星は最初は私たちに警戒をして全く懐かなかったが、徐々に心を許したのかすっかり家族の一員であり、中でも私には1番懐いていた。 そんな日々を過ごしていたある夏の夜、私と景太が庭で花火を楽しんでいる時のことだった。いつも家の中にいるはずの流星が花火の光に興奮した様子で庭に飛び出してきて、私の花火の火花が流星の背中にかかってしまったのだ。 「アチッ!」 私は耳を疑った。ハッキリと流星がアチッと言ったのだ。 「流星、大丈夫!?お姉ちゃん、気を付けてよ。」 景太は流星を心配し、まだ火花が出ている花火をバケツに投げ入れて流星に駆け寄り頭を撫でた。 「ね、ねぇ景太。今さ、流星がアチッって言わなかった?」 「は?キュイ〜ンって痛そうな声だったじゃん。お姉ちゃん大丈夫?スイカの喰いすぎなんだよ。」 …スイカ関係ないし!てか、最近の景太生意気なんですけど!…いや、今はそんなことより流星の方だ。 私が流星の目を見つめていると、流星は私と目が合う瞬間にギョッとした表情をして目を逸らした。 「やっぱ流星おかしいって!」 「そんなに睨み付けられてたら誰だって目を逸らすってば!」 景太の即座の反論に私は良い言い返しの言葉が見当たらず、手にしていた花火をバケツに入れて、そそくさとリビングに上がった。 「あら、もう終わったの?」 お母さんがキッチンから顔を覗かせた。 「…飽きたの。」 「あんたねぇ、夏の思い出にどうしてもやりたいってしつこく言うから買ってきたのに飽きたって。」 「…また明日やるの!」 すると、流星を抱きかかえた景太がドタバタと庭から上がってきて、キッチンに駆け込んでいった。 「お母さん!お姉ちゃんが頭おかしいの!流星が喋ったって言うんだよ!」 …また景太は余計なことを。 「…ふーん、お姉ちゃんはもしかしたら動物の言葉が分かる体質なのかもよ。どうなの?ひなた。」 お母さんがソファに横たわる私に問いかけてきた。 「…本気で言ってんの?」 私は寝そべったまま適当に返事した。景太が面倒くさい質問をした時のお母さんの常套手段だからだ。 「違うみたいね。景太、お母さん今新作のケーキ作りで忙しいから。気になるならお姉ちゃん本人に聞きなさい。」 …ゲッ、また面倒くさくなる返しを。 私は景太が来る前にそそくさとリビングを後にし、自分の部屋がある2階に急いだ。部屋に入るなり私はベッドに仰向けに倒れ込んだ。なんだかんだベッドに横になる瞬間が1番幸せな時だと思っている。 タイミング良くスマホが鳴り、誰とも確認せずに寝そべりながら電話に出た。 「もしもし。」 「お、出るの早いな。」 「涼之介(りょうのすけ)?珍しいじゃん、どうしたの?」 涼之介は私の幼馴染で年齢は1つ下。家は今も変わらず隣だけど高校は違うため最近はほとんど会っていなかった。 「…なんかさ、ずっと気になってたことがあって。」 「何よ。何か声のトーンが怖いんだけど。」 「…ひなた、最近彼氏出来た?」 「はぁ!?」 私は思わず上半身を起こした。 「何よ急に。私に彼氏なんていません!何を見たらそう思うのよ。」 「…あ、いや。違うんだ…。」 「…どうしたのよ。はっきり言ってよ。」 「じゃあ言うけどさ。最近さ、ひなたの家からお父さんとも景太とも違う男の人の声が聞こえるんだよ。だからてっきりひなたに彼氏が出来たのかと。」 「…男の人の声?」 私はハッとした。 「ねぇ!その声ってどんな声!?」 「え?どんなって…何と言うか、オッサンみたいな声…かな。」 …やっぱり。私がさっき聞いた流星の声もお父さんよりも年上のおじさんみたいな声だった。 「その声って何話してたか分かる?」 「この前さ、俺が夜に庭に出てる時に、ひなたの家の中から微かに聞こえたんだけど。…制服がなんとか、みたいな。」 「せいふく?学校の?」 「いや、全く中身は分からないよ。…でも彼氏じゃなかったんだ、良かったぁ。」 涼之介が呟くように言った。 「ん?彼氏じゃなくて良かったって?」 「あ、いや何でもない!じゃな!」 涼之介は慌てた様子で一方的に電話を切った。相変わらずな性格だなと思って私はスマホはそのまま枕元に置いた。 「…おじさんの声。あ、そう言えば…。」 確か一昨日の夜中にトイレに起きた私が部屋から廊下に出ると1階からぼそぼそと男の人の話し声が聞こえてきた。てっきりお父さんが飲み会から帰ってきてテレビでも点けてるのだろうと思って、私はそのまま寝たんだけど、翌朝その話をお母さんにしたら、お父さんは飲み会でもなく、いつも通りの時間に爆睡状態だったって。結局私が寝ぼけてたんだって思ってたんだけど、もしかしたら…。 私はスマホを手に取り、夜中の1時にアラームをセットした。
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