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北海道一賑わう空港は、観光客でごった返していた。
道内から飛行機で移動した私は、羽田からの依澄さんと時間を合わせて待ち合わせをしていた。
「依澄さん!」
彼の姿を見つけて、手を振りながら呼びかける。数日会っていなかっただけなのに、久しぶりみたいに感じてしまう。
走り寄ると、勢いのあまり腕に飛び込んでしまう。そんな私を抱き止め、依澄さんは嬉しそうに笑っていた。
「今日は、いつもより積極的だな」
「だって、嬉しくて!」
人目も憚らず、抱き合ったまま素直に口にすると、彼は口角を上げる。
「そんなに俺に会えるのが嬉しかった? それとも、美味いものをたくさん食べるから?」
「どっちも、です! 凄く楽しみにしてたんですから」
それを聞いて彼は目を細めると私の手を取った。
「俺も」
当たり前のように、繋がれた手の指を絡め合う。言葉は無くても、心が通じ合っているような気がして、幸せで満たされる。そんなことを思いながら、歩き出した。
依澄さんが手配してくれていたレンタカーに乗り、目的地に向け出発する。
いつもはビルの群れの隙間を、縫うように車を走らせているが今日は違う。広々とした景色は、地平線まで望めそうだ。それが、アメリカの景色に似ていて、どこか懐かしい。
依澄さんもそう思ったようだ。車の中では、自宅のあるニューヨークから、私の住む町までの数時間のドライブの話を聞かせてくれた。
そうしているうちに、徐々に景色は都会めいてくる。
今はもうお昼を過ぎていて、明日は15時台の飛行機に乗らなくてはならない。たった一日しかないが、せっかくだから美味しいものを堪能したい。あれこれリサーチして、北海道の定番だけど、これは食べておきたいというものを二人で考えてきた。
まずは、ジンギスカン。
テラス席もある、開放的な店で食べるお肉は最高で、勝手に顔が笑顔になってくる。依澄さんも、もちろん堪能していた。
お腹を満たしたあとは観光。夕食までの間、二人で有名な観光スポットをあちこち見て回った。
「あれっ?」
ふと、さっきも同じ観光地にいたカップルが目に入り、小さく声を漏らした。
「どうした?」
「えっと。さっきも同じ人を見かけた気がして」
「……どの人?」
依澄さんが顔を寄せ、小さく尋ねる。教えようとするが、もうその姿はなかった。
「うーん……。気のせいだったみたいです」
そういえば、さっきも同じツアー会社のガイドを見かけた。きっとその中の客なのだろう。たまたま同じコースを周っているだけ。そう思い直し、話題を変え彼に話しかけた。
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