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咲人の言いたいことも、一理ある。
僕は悩んだ末――友達に、菜々香のことを相談したことを伝えたのだった。好都合にとも言うべきか、彼女は最低でも週に一度は家に来るようになっていた。咲人に相談した翌日にはまた“一緒にDVD見ろ”と押しかけてきたのである。
僕は正直に彼女に話した。
咲人に、菜々香が自分に気があるのでは?と言われたこと。でも、自分はそれを否定したこと。僕自身はとても地味だし、情けない男だし、菜々香に釣り合うタイプだとは一切思っていないこと。
それから。
「高校に入って、学校バラバラになって、疎遠になったじゃん?お前は、それ全然気にしてないと思ってたんだ。だから、俺のことも全然意識してないんじゃないかなあと、まあそういうことを思っていたわけですけ、ど……」
話している最中で、菜々香の様子がおかしいことに気付く。ソファーに座っている菜々香の背がどんどん丸まっていく。まるでお腹が痛いみたいに、その場で蹲ってしまったのだ。
「ちょ、菜々香?どした?」
「……うっさい」
「いや、うっさいじゃなくてさあ」
「だってうっさいんだっつの!……ああもう、本当に、本当に、ああもう本当に気づいてなかったとか!鈍すぎ。ばっかじゃねーの、この馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿龍也!!」
「ば、馬鹿って言いすぎ……」
がばっと顔を上げて、菜々香は言った。その顔は――わかりやすいほど真っ赤に染まっている。
「あたしだってもう二十歳の女なんだっつの!興味もなんもない男の家に、こう何回も押しかけるわけないだろ?なんでさ、何で少しは察しようとしねえんだよ、空気読めよゴラ!」
「え、えええええ?」
さすがに僕も気づく。どうやら、咲人が言っていたことは当たっていたらしい。
らしい、のは理解したが――いやしかし。
「だ、だってお前、高校の頃とかむしろ僕のこと避けてたじゃん?大学に入ってすぐの頃も特にリアクションなかったし……なんで最近、急に?」
これである。
僕に気があるなら、なんでよそよそしくしたんだ、という話だ。だから僕も、僕のことを彼女が男として見ていることはないだろうと思っていたのに。
「……だって気まずいじゃん。今まで、普通に友達だったのにさあ。……好きだって、気づいてなかったんだから、しょうがねえだろ」
菜々香は露骨に目を逸らして言う。そして。
「さ、最近、可愛い女の子がしょっちゅう家に来るじゃんお前!そ、それ見てたら焦るだろ普通!」
「……はい?」
挙句の果てにこれである。僕は口をあんぐり開けて、誰の事だそれ?と本気で考えた。考えに考えて――気づく。
菜々香に話をするきっかけとなった、例の電話の相手のことを。
咲人が、声さえ聞かなければ女の子に見える容姿と服装だという事実を。
「……それ、咲人のことか?ショートカットで、よくピンクのニット帽被ってるやつ。……男だぞ、あいつ」
「え゛?」
謎はすべて解けた。
どうやら菜々香は、僕の家に頻繁にやってくる咲人を女と勘違いしていて、それで焦っていたらしいということ。――今まで自分は特別なポジションにいると思っていたから安心していたのに、彼女ができたかもしれないと思って混乱したらしいこと。それで、自分の存在をアピールしなければと家に押しかけることを繰り返していたこと。
そのアピールの仕方が、いささか斜め上にぶっとびすぎていたのと。彼女が緊張しまくっていたゆえ、いつも不機嫌そうに見えていたのだと知り――僕は笑うしかなくなったのである。
「だはははははははははは!お前、ばっか、ばっかだなあ!」
「ううううううううるっせー!」
そして彼女は今日も言うのである。
「あ、アタシは腹減ってんだよ、いいからチャーハン食わせろ!」
「はいはいはい」
ラブリー・チャーハンガールは今日も元気にツンデレている。
僕も正直、まんざらではない。
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