ラブリー・チャーハンガール

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 ***  彼女のおかしなことは他にもある。  彼女の家(マンションの404号室)から僕の家(同じマンションの305号室)は確かに近い。近いと言えば近いが、やってくる用件が毎回バラバラなのだ。  英語を教えろ、ということもあれば。 『同じゼミの奴からなんかプレゼント貰ったんだけど、一人じゃ食いきれねえからお前も食え』 『ホラー映画のDVD買ってきたけど一人て見てもつまらん。お前も一緒に見ろ』 『アクションゲーの攻略ができない!何回やっても同じステージで詰まる!お前なんとかしろ!!』 『腹減った。なんか食わせろ』  こんなかんじ。  相変わらず口も悪ければ態度も悪い。いつも機嫌が悪そうな顔をしているのも謎である。そんなに僕に頼るのが癪なんだろうか。  特に、一番最後の“ハラヘッタ”が一番よくわからないのである。というのも、僕の記憶が正しければ彼女は料理が下手な方ではない。僕とどっこいどっこいのスキル、あるいは向こうの方が上手いかもしれないレベルだ。  だから正直、彼女に手料理を喰わせるのはあまり気が進まないのである。すぐにできる簡単な料理、といった時僕にできるのは精々チャーハンか焼きそばくらいだからだ。手の込んだ料理をさっさと作って人様に出せるほどの能力はない。それなら、肉じゃがも作れるらしい菜々香の方がまだマシなレベルなのではなかろうか。  だから彼女が押しかけてきている時に夕食時が近づくと、それとなく僕は言うのである。 「そろそろいい時間だし、帰れば?親御さん、晩御飯作って待っててくれるだろ」  しかし、彼女ときたら決まってこうだ。 「親には、今日は外で飯食ってくるって言った」 「は?」 「というわけで龍也、なんか食わせろ。あたしは腹が減ったんだ」 「は?」 「ああ、インスタントラーメンとかはなしだからな。チャーハンでも焼きそばでもいいから、お前が作ったもの食わせろ。いいな」 「は?」  なんとも横柄な態度である。いや、彼女は昔からこれだからそれは別にいい。今更気にならない。言われた通りにご飯を作って、それで味とか内容に文句を言われたこともないから尚更に。でも。 「お前の方が料理上手いじゃん。つか、菜々香のお母さんも料理上手いじゃん。俺のチャーハンなんかよりよっぽど美味しいのに、なんでそっち蹴ってこっち来るのさ」 「うっさい。そんなのあたしの勝手だろ」  これである。まったく質問の答えになっていない。一体何がしたいんだろう、と疑問に思う他ないのだった。
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