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「と、いうわけなんだけど」
『ほうほうほうほうほうほう』
ある日の夜。同じ大学のゼミに通う友人、咲人に電話でその話をしたのだった。咲人は高校時代からの友達である。背が小さくて、女の子みたいに可愛い顔、ユニセックスな服装が似合う系男子。高校時代はバスケ部でちょっとしたアイドルみたいな少年だった。まあ実際は、喧嘩になると口より手より足が先に出るという非常に野蛮な性格ではあったのだが。
そのアグレッシブな性格から、着いたあだ名が“男の娘詐欺”。――まったく、酷い言われようである。本人はあんまり気にしてない様子だったが。
家もわりと近いので、時々うちに遊びに来ることもある人物だった。
「面倒だから、人に飯を作らせたいってのはわからないわけじゃない。でも、腹減ったらうまいもん食いたいのが心情じゃん。なんで親の美味しい飯を蹴って俺に作らせるんだか」
『ふーん?』
「……なんだよさっきから、なんか楽しそうな相槌しやがって」
電話の向こう、咲人は随分楽しそうである。そんなに面白い話をしただろうか、と僕は解せない気持ちでいっぱいだ。
『そりゃ、お前の飯が食いたいからじゃね?ストレートに考えて』
咲人はあっさりのたまう。
ちなみに、可愛い顔して声は結構低いのが彼である。黙っていると女の子に間違えられるが、声を出せば一発で性別がバレるというあれだ。
『つまり、彼女はお前に気があるんだと見た。すげえなリア充爆発しろよゴラ』
「殺意!殺意怖い!つか、それはないって、だったらいつももっと楽しそうな顔するだろ!?なんで不機嫌なんだよ!」
『素直になれないだけじゃね?もしくは、お前が好意に気付かないからイライラしてる可能性』
「ええ……?」
そうかなあ、と僕はしょっぱい気持ちになる。こう言ってはなんだが、菜々香は可愛い。ショートカットでボーイッシュな性格、しかし体型は出るところ出てるし引っ込んでるところは引っ込んでいる美人。あと、つっけんどんな物言いが目立つが優しいところもあると知っている。特に、昔から喧嘩っぱやかった理由は、弱い者いじめを断固として許せない性格だったからというのも。
小学校低学年の時は、僕も結構なチビだった。彼女に助けられることも少なくなかったのである。その代わりに、僕が彼女に得意な勉強を教えるといった構造になっていたのだ。
だからそう、女性としては魅力的だし、好かれていたら嬉しいけれど。
「ないって、絶対」
もし僕が、彼女に吊りあうイケメンだったならそうかもしれないと思えたかもしれない。でも実際、僕はモブ集団に埋没するような地味人間だ。
「あいつ昔からめっちゃモテるんだぞ。いろんな男と付き合ってるって噂あったくらいだし。そんな奴が、僕みたいな地味メン好きになるわけねえじゃん」
これである。
あまりにも、釣り合わない。だから正直――余計な誤解も、期待もしたくないのだ。
「……僕、あいつとはなるべく友達でいたいしさ。傲慢だって思われて、嫌われるとか嫌なんだけど」
それが本音。
何で毎回家に突撃してくるようになったんだとか、どうして僕のご飯ばっかり食べたがるんだとか、そう言う突っ込んだことがなかなか訊けない理由。
『……そんなことないと思うんだけどな』
はあ、と咲人が電話の向こうでため息をついたのがわかった。
『向こうは、お前が気付いてくれるのを待ってるかもしれないぞ。お前もモヤモヤしてるなら、訊いてもいいと思うんだけどなあ。……アピってるのに、つれなくされるのは辛いもんがあるじゃん?案外、あっちも気にしてるかもしれないぞ』
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