第二幕 リラとカラボス 3.夜の森の秘密

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第二幕 リラとカラボス 3.夜の森の秘密

「カラボス、おまえはいったい何を心配しているのだ?」  寝台に横たわった魔法使いにのしかかったまま、褐色の肌をした美丈夫がたずねた。  たくましい背中には長くまっすぐな黒髪が流れ、筋肉のうねる太い腕が痩せた体をおさえつけている。カラボスの衣はなかばひらかれ、白い胸と喉元がむきだしになっていた。  魔法使いは肌を揉みしだく男にしかめっつらを返した。 「心配してるわけじゃないさ、鴉の王。リラがこのあと何をするか気にしているだけだ。俺はあいつをよく知ってるんだ。十五年前に俺がかけた呪いの邪魔をするだけで満足するわけがない」  褐色の美丈夫は不満そうに目を細めた。 「そいつはただの人間にすぎないのだろう? 俺をさしおいて気にするようなことか?」 「ただの人間じゃない。リラは魔法使いだ。俺とならぶ力を持っているし、おまえの兄弟を毒で殺した」 「ああ、あいつか――わかった」  褐色の肌の男は眉をひそめたが、手はカラボスの肌をまさぐりつづけている。 「いいから今は俺を見ていろ、魔法使い。この姿でいられるのは夜のあいだだけだからな」 「その気になればできるんじゃいか? 俺は知っているぞ」 「四の五のいうな、魔法使い。俺はおまえが欲しい」 「俺の魔力が、だろ? 鴉の王――こら、がっつくな」 「俺の精気を注いでやるんだ。おとなしくしろ」  カラボスの喉から小さく叫びが漏れる。褐色の肌の男は魔法使いの下腹を唇でなぞり、立ち上がってふるえる屹立を口に含んだ。  男は森の偉大な精霊、鴉の王であり、カラボスの親友である。自然の精霊は肉体を持つものに精気を与えると、夜のあいだ同じ種族の姿をとるようになる。  ずっと昔、カラボスが西の山地へやってきたころ、死にかけた鴉の群れを魔法で救ったかわり、魔力を大量に失うという出来事があった。鴉の王は自分の精気をわけあたえて魔法使いを助けたが、その際、自然に親しい魔法を得手とするカラボスの魔力をいたく気に入ったのである。 「んっ……あっ、あっ――」 「うまい」  鴉の王は魔法使いの両足をひらかせ、腰をもちあげた。秘められた奥の入口を舌と指で弄り、精気の雫でほぐしていく。ふだんは青白いカラボスの頬はいまや淡い紅に染まっていた。誘うようにうごめく腰に肉棒を押し当て、王は魔法使いの中にぐいっと押し入った。 「俺はおまえの中にいるのも好きだぞ、カラボス」  みしりと寝台がきしんだ。王が体の奥を突くたび、稲妻のような快感がカラボスの全身をつらぬく。そのたびに魔力が流れ出て精霊の精気とまざりあい、またカラボスの中に戻っていく。王の精気でカラボスの魔力は自然とより近くなり、他の魔法使いにはけっして持ちえない強さを得る。 「ああ……いいぞ……おまえと繋がっているのは気持ちがいい……」 「んっ、あっ、あんっ、はぁっ、ああっ」 「……おまえが鴉だったら、飛びながらつがえるのに」 「……馬鹿……あぁっ……はっ、四六時中こんなこと……やってられるか……」  精霊はカラボスの唇をおのれの口で黙らせた。同時につながった腰を激しく打ちつけ、奥まで精気を注ぎこむ。魔法使いの体が快楽にふるえるのを王は微笑んで見守った。 「どうだ、カラボス。心配事は去ったか?」 「……どうでもよくはなったな。まったく……」  カラボスの魔力と王の精気が充満して、小屋の空気はほんのり暖かい。鴉の王は褐色の腕をカラボスの胸に回した。 「どうしておまえはその魔法使いをそれほど気にするのだ。そいつはそんなに特別なのか?」 「……おなじ師匠についていたんだ。師匠に拾われたころ俺はほとんど獣だった。狼と鴉が俺を育てた」  鴉の王は満足げな微笑みをうかべた。 「おまえはそういうところがいいんだ。この森にいなかったのが残念だ。もっと早くおまえを捕まえていたのに」  カラボスは小さく首をふる。 「あの頃の俺は魔力が垂れ流しだった。食ってもうまくなかったと思うぞ。師匠のおかげで俺はただの魔力ではない、まともな魔法を使えるようになったんだ。リラは俺より前から師匠についていて、俺よりずっと魔法がうまかった。あいつはとても人間らしくて、最初のうち俺はあいつが――いいと思ったんだ。で、俺ももうすこし人間のようになろうと思った。リラのようになりたかった」  鴉の王が鼻を鳴らした。 「それは気に入らんぞ。まるでそいつに惚れていたような言い草だ。まさか体を許してはいないな? 魔法使いは他の魔法使いの魔力を食ったりするのか?」 「体は何度も許したさ。魔力は食わなかったと思うが」  王の眉が剣呑なかたちにあがった。 「何だと」 「あいつは他の人間を征服するのが好きなんだ。誰だろうと自分の魅力に惹きつけておかなければ気がすまない。俺の場合はそれだけじゃなかった。あいつと互角に魔法が使えたから、俺を支配して打ちのめしておく必要があった。俺も若くて馬鹿だったんでね。あいつを信じて、何度も裏切られるまでわからなかった。昔の話だ」  鴉の王はあきれたようなため息をついた。 「で、いまだにそいつを気にしているわけだな。けしからん。城の様子をもっと調べさせよう。そいつが何を企んでいるか」 「気をつけろ。リラは自然に関わる魔法が苦手だから、おまえのことをわかってない。俺の使い魔だと思っているかもしれない」 「それは見下げられたものだ」 「あいつは何でも自分の魔法で作って、自分の意のままに操りたいたちなんだ。――ということは」  カラボスは目を瞬いた。 「ひょっとしてあの人間もそうなのか? だがなぜ、王子の姿をさせる必要があるんだ?」
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