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安田謙
朝は動物たちの世話で忙しい。猫が顔を擦っているが、これは顔を洗っているらしい。
「安田さん、おはようございます」
同僚の杉さんが頭をちょこんと下げて挨拶をしてくれた。私もそれに倣って頭を下げる。
「お、いいね。日に日に人間らしくなってるよ」
「ありがとうございます」
私が人間ではないことを皆が知っている。それなのに、私は人間の名前を持っている稀有な事例だ。それをなぜなのか誰も言わない。
「安田さん、今日は天気がいいから犬たちを日光浴に出してやって」
「はい。日光浴は気持ちがいいですよね」
私は機械なのに日光浴が好きだ。それがどうしてなのかもわからない
「そそ。じゃあよろしく。安田さん」
安田さんと呼ばれるたび、私は失ったデータを探すような不思議な感覚を覚えるのだった。それと同時に部屋に置いてある鉛筆という古の道具を繰り返し思い浮かべてしまう。使えもしない鉛筆を持っている理由も、それを大事に扱わなければと感じる感覚も私には不思議だ。
首を傾げて人間風に考えてみるも、答えはでないままだった。
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