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「うっつ…俺の、俺のビスケがああ」
と、控室でアーサーはシルバに慰められながら鼻をかんでいる。10数年にわたる片思いがあえなく終わってしまったことに、シルバは深く同情している。
「アーサー様、お気持ちは分かります。ですが、これもビスケ様の幸せ。笑って送り出してさしあげましょう」
「う…うう、綺麗だぜ…ビスケ」
ビスケはオスカーの家に古くから伝わる伝統的なドレスを着ていた。目を引くつくりではないものの、品のある落ち着いたデザインが、ビスケの素朴な印象とよく合っている。
「時間か?」
と花婿のジャケットを着たオスカーが部屋にやって来た。
「ええ、オスカー様。参りましょう」
そういうと、ビスケはオスカーの腕に手を回した。あたたかな体温が伝わり、ビスケは胸がいっぱいになる。きっと、城のホールでは使用人たちがフラワーシャワーの準備をしていることだろう。おそらくは目がくらむほど幸せな光景だ。長い廊下を二人で歩きながら、ビスケが呟く。
「オスカー様、私、とても幸せです」
「ああ。俺は以前、シルバに言われたんだ。いつか笑顔が溢れる幸せな家庭を作ってほしいとな」
「まあ、そうだったんですか」
オスカーは回した腕に少し力を込めた。
「張り詰めていた俺の日々に温もりを与えてくれたのはお前だ。本当にありがとう」
そういって、ふたりは微笑む。ホールのドアを開ければ、間もなく式がはじまるのだ。
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