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都会に大雪
その年、東京には珍しく大雪が降った。
その昔、江戸時代には今より気温が低く雪が当たり前のように降っていたようだが、今は、少しの雪でも大騒ぎになる。
交通渋滞が起きたり、滑って転びケガをした人のことがニュースになったりする。
小学校では
「雪が降ったから、今日は校庭で雪遊びをしましょう。」と
授業を止めて校庭に出るほどだ。
雪が降ると、イベントなのだ。
私はその当時、霞ヶ関の官庁街に勤めていた。
始めは地下鉄を利用していたが、あまりの混雑と1日陽を見ないで終わるのが嫌になり、ある時から有楽町駅で
山手線を降り、日比谷公園を抜けて
通勤するようになった。
日比谷公園の朝は清々しい。
公園を走る人、散策する人、ベンチで寝転がる人色んな人がいて、花壇も美しく、木々も豊富に植えられている。
駅から歩くと15分ほどかかるから、
前より少し早起きしなければならないが、この朝の楽しみを知ってからは苦にならなくなった。
ところで、その大雪が降った翌朝。
日比谷公園まで歩いてくると…
なんと、一面雪原だった。
どうしよう…
一瞬躊躇った。
公園を迂回して行けば時間がかかり、遅刻してしまうかもしれない。
だが、公園を通っても一面の雪。
誰も足を踏み入れた形跡がない。
いつもよりは時間がかかるだろう。
結局、雪原を歩いてみたいという好奇心から、私は雪原に入っていった。
雪は思った以上に深く、膝まで埋もれる位だった。
一歩一歩、ズボッズボッと歩いた。
何処が通路でどこが花壇かも分からないほど積もっていたから、
「私、日比谷公園で遭難する?」
などと考えながら進んだ。
時々こけて雪だらけになって、だんだん楽しくなり、“遅刻してもいいか”と開き直って歩いた。
引き返して迂回しても、どうせ遅刻だ。
私は完全に雪と戯れることを楽しんでいた。
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