KHM153 / 序章 灰雪と銀狼のエピローグ

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*****  〈王狼(おうろう)〉は王命を受けて、彼女を探していた。もちろん殺すためだ。だが、こと計略という点においては、アンナ・ビルツのほうが上手(うわて)だった。僕たちは彼女のはった罠にかかったんだ。だが、問題はそこからだった。  〈王狼〉と、それに協力していた人間達は半分に分けられた。どちらかを殺せば、どちらかが生きられる。僕たちを捕らえた革命派の人間はそう言って、殺し合いの遊戯(ゲーム)をさせた。君の言葉を借りるなら、貴族の遊びだな。とはいえ、僕たちを捕らえた人間達は、アンナ・ビルツの威光を(かさ)に着るばかりの平民だったから、平民の遊びというほうが正しいのかもしれないが。  いずれにせよ、あれは見張り達にとっての暇つぶしでしかなかったし、僕たちはそこから逃げる術をもたなかった。僕たちの協力者も、家族ごと捕まっていたからだ。  たかが遊戯なんかで、仲間を殺すはずがないと思うだろう? だが、寒さと飢えは人間の思考を狂わせる。革命派の人間も、それをよく分かっていたんだ。僕たちは厳冬の地下牢に閉じ込められたままだった。食料はおろか、水も与えられなかった。  仲間の一人が僕を殺しに来たのは、数えて十日目のことだった。片目猿(エイル・グノン)と呼ばれていた男だ。彼は気のいい人間だったよ。髪が薄いのをずっと気にしていて、それと同じくらい仲間の些細な心の変化にも気づく男だった。そんなやつだったから、飢えに苦しむ協力者を見ていられなかったんだろう。僕たちと違って、協力者の家族には幼い子供も含まれていたから。  だから僕は、僕たちを襲ってきた片目猿(エイル・グノン)を殺した。僕たちの側にも協力者の家族がいたからだ。  その夜、見張りは僕たちに食料と飲み物を差し入れた。片目猿(エイル・グノン)の肉と血だった。  最悪の味だったが、吐くわけにも、腐らせるわけにもいかなかった。墓がないんだ。死してなお、仲間の尊厳を踏みにじるわけにはいかなかった。だから食べた。  そのあと、僕は十二人の〈王狼(おうろう)〉と、二十五人の協力者を殺して、手に入れた食料を仲間と分け合った。当然、僕を気味悪がって、糾弾する人間が出始めた。そのたびに、革命派の人間はいがみ合う者を家畜のように分けて、殺しあいをさせた。僕は少なくなった仲間を守るために、さらに〈王狼〉を九人と、協力者十四人の命を奪って血肉を得た。  最後に残ったのは向こう見ずな子犬(テメリテ・シオ)――〈王狼〉で一番若い男と、協力者の赤子だったな。彼は子供を包んだ布の塊を僕に託して、自分の喉を掻っ切った。包みにくるまれていた赤子も、とっくの昔に息絶えていた。僕は、だから、彼らも食べた。  ちょうどそこで助けが来て、僕は革命が終わったことを知ったんだ。
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