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女は、革命軍の拠点となる街に住んでいた。たしか幼い子供が二人いたはずだ。夫は家にいなかったが、これは戦禍で死んだからだ。だがそんなことはどうでもいい。大切なのは、彼女が革命軍の息がかかった街に住んでいたということで、いまやその街は、男たちの所属する兵士が占拠したということだった。
彼女が革命軍に協力していたかどうかは不確かだが、殺さなければならないことは確かだ。
簡単なことだ。彼女がいま裏切り者でなかったとしても、いつか裏切るかもしれない。そうなれば自分を殺しに来るだろう。
仮に裏切らなかったとしても、住民に情けをかけた罪で、今度は自分が仲間から追われることになる。そうなればやっぱり、自分は殺される。それは駄目だ。だって自分には子供がいる。妻がいる。老いた父母もいる。生きて帰らねばならない。
その意味で、彼女は裏切り者だった。何度もそうやって言い聞かせた。自分が生きるために。
――気が狂いそうだ。一体いつから、誰かを殺すことを代償に、自分は生きるようになったのだろう。
逃げ惑う女に追いついて地面に引き倒した。本当は撃つべきではない。銃口を暴れる背中に押し当てた。殺すべきじゃない。銃の引き金に指をかけた。死なせたくはない。指先が震えた。けれど自分も、死にたくはなかった。
すまないと、謝る。発砲音が響いた。
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