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コーヒーと紅茶を用意して戻ってきたルーを待っていたのは、へらへらとソファで笑うアルヴィムだけだった。何事かと問うまでもない。部屋を飛び出したらしいアンナとすれ違ったし、男の頬には真っ赤な手形が残っている。
アルヴィムが呑気に言った。
「いやあ、女心って難しいなー」
「また何か余計なことをしたんですね」
「またとは失礼な。俺のやることにはすべて意味があるんだよ」
ルーは答えず、アルヴィムにコーヒーを押しつけた。紅茶はアンナの分だが、さてどうしたものか。追いかけたところで、面倒な絡みをされそうだ。
斜め上の妄想で盛り上がるアンナを思い出す。急に面倒くさい気持ちになったし、実際それは微妙に顔に出ていたのだろう。コーヒーを一口飲んだアルヴィムはのんびりと言った。
「追いかけるがいいよ。なんだかんだ言って、お前は昔からアンナ・ビルツのことが好きだろう」
「殴られたいんですか」
「わぁ、相変わらずお前も俺に辛辣だ」アルヴィムはからからと笑ったあと、目を細めた。「まぁ、いいさ。狩人の処遇は俺に任せて、お前はアンナ・ビルツを守りなさい。大切な人を、二度も失いたくはないだろう?」
ルーはため息とともに、手元の紅茶を見やった。
凪いだ水面が冬の日差しを弾く。淡い輝きのまぶしさに目を閉じて、静かにうなずいた。
「はい、分かっています。先代」
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