間章あるいは魔女の断片

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間章あるいは魔女の断片

【Posthumous manuscript -Actress-】  人々が望む姿を、まとうのよ。  色とりどりの光を閉じ込めた宝飾品(ビジュー)、ひらひらと春風をつかまえるシフォン生地のワンピース、レースをたっぷりとあしらったつば広帽子(キャベリン)。昼はふっくらと柔らかな薄薔薇色(ベビーピンク)を、夜にはしっとり濡れて輝く濃薔薇色(ローズレッド)を唇に。つまさきを美しく彩る芸術品のような靴をはき、細い足首にはサテンのリボンをふわりとかけて。  美しいと、可愛いと、あどけないと、(あで)やかと。眼差しひとつ、指先ひとつで美を演じて、舞台の下のあなたを見つめる。  さあ、ご覧じあそばせ。その目にしかと焼きつけなさいませ。  せまる戦禍の足音も、日常に影落とす断絶も、今ばかりはこの眼差しで忘れさせてみせましょう。  すべては、きたるべき春のために。 『五月の薔薇(マイレースレ)~舞台女優ティカ・フェリスの手記』より抜粋
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