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怪談・雪女
彼女は熱いものが苦手だった。
彼女が来てから、仕事がはかどっている。陶芸の授業はもちろんデスクワークでも心の余裕ができて、俺達は陶芸室で過ごすことも増えた。
美しく有能な彼女と二人きりの時間。
俺はちょっと色んな意味でドキドキしていた。
嬉しいような、でも少し怖いような。
休憩時間に、コーヒーを淹れて幸奈にさし出すと、彼女は嬉しそうに受け取った。
そのままでは飲めないと、熱々の淹れたてコーヒーに給食の牛乳をどばどばと足した。もはやコーヒーの原型をとどめない、白い液体になったカフェオレもどきの温い飲み物を彼女は愛飲した。十分に温いと思われる物を、両手でカップを持ち、更にふうふうと冷ましながら口をつける。
(雪女だから、熱いものは苦手なのか?)
と思う傍ら、
「先生の淹れてくださったコーヒー、美味しいです。ありがとうございます」
と言う幸奈に、
(どうしよう。可愛い。綺麗。働き者だし、礼儀正しいし……)
俺の頭の中には、幸奈への賛辞が止まらなくなっていた。
(でも、彼女は……)
初対面の彼女は、俺を見て「あの日」と言った。
(雪女なのかもしれない)
伝説にある。
山小屋で年寄りと若者二人の猟師が休んでいると、夜中に雪女が現れる。雪女はまず年寄りを凍死させ、次に若者も手をかけようとする。だが、雪女は「お前はまだ若い」と見逃す。
あの日、俺と親父は深い眠りに落ちた。
俺が覚えてないだけで、雪女と遭遇し、見逃してもらっていたのかもしれない。
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