2人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
怪談・雪山姥
「じゃあ……、俺、今日は成績処理があるので職員室に行くね」
「はい。後はお任せください」
二人きりで過ごす時間が長い所為か。
氷の微笑と思えたあの顔が、いつの間にか優し気な笑顔に見えていた。そんな彼女の笑顔から、俺も目を離せなくなっていた。
(だけど、幸奈は「あの日」を知っている。親父の命日を知っている)
俺は、確かめなくてはという思いに駆られた。
(幸奈は、雪女なのかもしれない……)
彼女を騙すかのようで後ろめたさはある。
だけど、俺は校舎の職員室に行ったと見せかけて、こっそりと陶芸室に戻ってきた。
聞こえてきたのは……
ドゴーン! ゴガーン!
陶芸室が揺れそうなほどの破壊音。
(一体、何をして……?)
恐る恐る覗くと、幸奈が一人、鬼のような形相で歯を食いしばり髪を振り乱している。あの重たい金槌を頭上よりも高く掲げ、「ふんっ」と勇ましいかけ声と共に粘土を叩き割っていた。
それはまるで、山姥のよう。
その時に俺は思い出した。
雪女の別名に「雪山姥」がある。
幸奈は、やはり雪女だったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!