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唐突の退職願いに混乱した俺は、今にも駆け出してしまいそうな彼女の腕を掴んだ。
「待ってくれ! 俺も……」
好きになっちゃダメだと思っても、彼女の笑顔から目を離せなかった。
それが答えだったんだ。
泣く彼女の腕を引き、そのまま俺の胸の中に引き寄せた。
(どこにも消えて欲しくない)
その一心で。
陶芸室の周りの畑には、あの日のように雪がしんしんと降り積もっていた。
◇◇◇
「今度の土曜日、親父の11周忌で」
「そう、言ってましたね。命日はやっぱり、あの日なんですか?」
「あの日?」
「あ、……何でもないです」
またもや、変なごまかし。
俺は不審に思いながらも
「君も一緒に法事に出てくれないかな? その……母と祖母に紹介したいんだ」
と言うと、幸奈は
「嬉しい。もちろんです!」
僕に抱きついてきた。
陶芸室は暖房完備の校舎と違って寒い。
ひんやりした幸奈の指先が俺の首筋に当たった。
「こんなに冷えて……。いつもここで一生懸命仕事をしてくれてありがとう」
愛しい幸奈の手を取り、細い指に俺は婆ちゃんの持たせてくれた指輪を通した。
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