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昔話・白兎の恩返し
「颯太さん……兎を助けたでしょ?」
「兎?」
そういえば、俺の雑な修理で穴から入ってしまった兎を助けたっけ。
「あの頃私、免許取ったばかりで嬉しくて、一人で秘湯巡りのドライブなんてしていたんです。
ある日、山の中で兎を逃がしてあげてる優しい男性を見かけたんです。
それから、ずっとその人が忘れられず……10年経っても覚えているって粘着質だと思いません? こんな私、幻滅しませんか?」
幸奈の目が恥ずかしそうに潤んでいた。
「幻滅なんてしないよ。
ん? それよりも、秘湯ってもしかして共同露天風呂のこと?」
「あら、秘湯を知っているんですか?」
なんてことだ。
あの時の女湯の気配は、本当に幸奈だったんだ。
(覗いておけば良かった……)
いやいや、そうじゃなく。
「あの日のことは、今でもずーっと覚えています。昔話のように兎を助けた人に惹かれた特別な日だったんですもの」
恥ずかしそうに幸奈は俯いた。
もうすぐ我が家が見えてくる。
美しいだけじゃない。
怪力で働き者で猫舌で一途な幸奈を、きっと母も祖母も歓迎するだろう。
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