雪が隠した罠に

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雪が隠した罠に

◇◇◇ 「……っ!」  蔵の裏手で何かが叫んだような声が聞こえた。 (やった! かかったぞ!)  急いで見に行くと、昼過ぎから降り出した雪が5センチくらい積もって見えにくくなった罠に白兎が一匹。ジタバタと暴れている。だが、がっちり食い込んだ罠は放してくれそうにない。  見ると適当に修理した穴は、猪は入れないものの兎なら入れる大きさに開いていた。 「……俺の修理が雑な所為で、入っちまったか。ごめんな」  こいつは畑を荒らした犯人の猪ではない。  柵を飛び越える忌々しい鹿でもない。  こいつが食べる作物なんて、たかが知れているだろう。  昨今、「ジビエ」といって害獣も美味しく食べちゃう風習もある。兎肉も美味いかもしれないが……。 「……」  俺は、親父に気付かれる前に兎を罠から放して、そっと柵の向こうへ逃がした。  そして今度は、二度と入ってこれないように丁寧に穴を塞いだ。
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