山の中の共同露天風呂

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山の中の共同露天風呂

 その夜だった。  昼からの雪は、既に15センチほど降り積もっていた。  スタッドレス履いた親父の軽四駆車はそんなことをものともせず、山道を軽快に走った。  そこは共同露店風呂。  誰でも設置されたポストに三百円入れたら使える温泉で、俺達はいつも畑仕事の疲れをそこで癒した。  露天風呂の圧巻の星空は、生憎と今日は雪雲に覆われて見えない。でも、雪見風呂も風情があって良い。  滅多に人に出くわさない温泉だったけど、その日は粗末な造りの壁の向こうの女湯に人の気配がしたような。 (珍しいな)  と思ったが、不届きな考えが浮かぶよりも先に、体が冷えてはいけない。風呂から上がると、急いで車に戻り、土蔵を目指した。  そして、いつものように寝袋を広げて、すぐに寝た。  しんしんと雪が降り積もった翌朝、隣で寝ていた親父が亡くなっていた。  死因は突然の心臓発作だった。  これが10年前の話だ。
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