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父の十周忌
◇◇◇
父の十周忌の法要で
「いやー、あの人もいい死に方したわ」
畑仕事が嫌いで一度も手伝ったことのない母が笑いながら言う。
俺も大学に進学した。
父が亡くなって誰も世話をしなくなった先祖代々の畑と蔵は気持ちよく売り出された。おかげで美味しい野菜にはありつけなくなったが、その金は俺の学費に充てられた。
畑を世話をする親父もいない。学費も足りない。
仕方ない選択だった。
「大好きな畑仕事終わらせて、温泉で汗を流し、気持ちよく寝ついたらそのまま天国に逝ったんだもん。きっと幸せだったわよ」
祖母がそれに応える。
確かに有村家は、『いつ、逝ってもおかしくないポックリ家系』と、かかりつけ医から言われてたけど。
それから、「しんみりはヤダ。明るく送り出してくれ」と親父も言ってたけど。
ついでにいうと俺は親父53歳の子だったので、享年71。
葬儀でも明るく
「お父さん、先逝って待っててね」
と送り出した23歳年下妻の母は、10年経ってもこうして明るく法事をしている。まだ、当分逝きそうにない。
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