有村家の嫁は豪快

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有村家の嫁は豪快

「十年って早いね。颯太ちゃん、28歳だろ? いい人いないの?」  母だけではない。祖母も、これまた豪快にぶっこむ人だった。  ポックリ家系の有村家の嫁は、細かいことを気にしていたら務まらない。おおらかで豪快なタイプが合う。祖母も母も、大雑把で豪快で底抜けに明るい性格だった。 「いないよ」 「そう? でも、いい人できた時の為に、婆ちゃんの形見の指輪を颯太ちゃんにあげとくね」 「気が早いよ。それに『形見』だなんて言わないで、婆ちゃん長生きして」  シンプルだけどそれなりに高価そうな指輪(プラチナリング)を押し付けられ、苦笑い浮かべる俺の頭に一人の女性が浮かんでいた。 (彼女はダメだ。彼女だけはダメだ)  頭を振るものの、色んな意味でドキドキと鼓動が早くなる。  俺より1つ上の29歳。  色白で漆黒の長い髪。艶やかな赤い唇に長いまつ毛に縁どられた切れ長の目。その整った顔は、まるで陶磁で作られた日本人形のような美しさ。  宇崎幸奈(うざきゆきな)は、既婚未婚関係なく周囲の男性が目で追う存在だった。  だけど俺は、あまりの整った容顔に (まるで氷でできた彫刻みたい)  と、不気味な冷たさを感じていた。  きっと彼女に白い着物を着せたら、雪女みたいになるのだろう。 「颯太ちゃん、学校の先生だっけ?」 「そう。特別支援学校で美術を教えてるよ」 「特別支援学校?」  祖母が首を傾げる。  あまりなじみがないようだ。  県内でも数校しかないもんな。  俺は大学で美術の教員免許を取り、その後、県の特別支援学校で採用された。配属されたのは「肢体不自由・病弱」と分類される特別支援学校で、エレベータースロープ冷暖房完備のバリアフリーの最新式校舎だ。  そこの生徒達に、陶芸を通して美術を教えていた。  陶芸室だけは、昔ながらの昭和の建物。  最新設備の校舎の離れに位置し、すぐ隣は高等部が育てている園芸の畑が広がる。のどかで懐かしい風景の片隅に、ちまっと寂しく存在していた。
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