だから、助手が来た

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だから、助手が来た

 一番大変なのは、ドロドロ液状粘土作りだ。  その日に来る人数分の丼を前日までに用意する。  だが、なにせ体が弱い生徒達。  必ずと言っていいほど欠席者が出る。  使わなかった丼をすぐに水に浸けたらいいのだが、授業だの明日の準備だのしていたら、うっかり忘れて固まってしまう。それはもうカッチンコッチンに。  一週間も置いてしまえば、それはもう石と同じ硬さだ。  それ以外にも前任者がのんびり屋だったらしく、管理が悪くて過去の古くて固まった粘土もある。  それらを大きく重たい金槌(ハンマー)で叩いて粉になるまで砕く。  これが、しんどい。  粉砕した粘土を60Lの業務用ポリバケツに入れ、水に浸す。  これでやっとドロドロ粘土ができるのだ。  毎日、生徒が使う道具も消毒しなくてはならない。手が使えない生徒は口で竹串やヘラを咥えて絵を描くこともある。道具は常に清潔にしておかなければならない。  朝7時に出勤し夜8時まで仕事をしていたが、毎日やっても追いつかず、バケツの中の粘土は次第に残り少なくなってきた。  ある日校長が「新しい助手の先生だよ」と連れてきたのが、宇崎幸奈だった。  高等部には「助手」という採用枠がある。  俺の仕事を見るに見かねて、助手を「陶芸専門」に当ててくれた。  彼女を見た時にあまりの色の白さ、美しさに目を奪われた。  だが、 「あなた……もしや、あの日の?」  という彼女の一言で、俺の認識は「美しい人」から「雪女」に代わった。 「あの日?」 「あ……、何でもないです」  と彼女は下手くそにごまかした。   「何かある」時ほど「何でもない」と人は答えるものだ。
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