決して見ないでください

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決して見ないでください

 陶芸の授業だけではない。教員である俺には、当然、成績処理や通知表作成、特別支援学校ならではの個別の資料作成などのデスクワークもあった。  それを俺は職員室で行い、その間に幸奈はドロドロ粘土を作る作業を陶芸室で一人、黙々とこなした。  不思議なことに幸奈は 「私が一人で作業している姿は、決して見ないでください」  と言うのだ。 「なぜ?」  と聞いたが、幸奈はそれには答えず、 「陶芸室に来る時は必ずインターフォンしてから。お願いしますね」  と言うのだ。  特別支援学校には万が一の事態に備え、各教室にインターフォンが設置されていた。いつでもどこでも、インターフォンでそこに行かずとも会話ができる仕組みだ。 「だから、なぜ?」  しつこく聞くと 「……死んじゃうから」  と、幸奈が小声で答える。 「は?」  死んじゃうのか、俺。  見たら、殺されちゃうのか?
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