プロローグ

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プロローグ

 ちょうど10年前。  田舎の山奥なんて、もはや二束三文の価値しかない。でも、先祖代々譲り受けた大切なものだ。  先祖は、そこに土蔵を建てた。ただの土壁でできた堅剛な建物。昔は蔵の中身もあったらしいが、戦後の混乱で生き抜く為にやむなく売り飛ばしたそうだ。  今は、がらんとしただだっ広い空間。建付けの悪い扉を入ってすぐの三和土には、農具一式が置かれていた。  俺、有村颯太は子供の頃から親父と一緒に畑仕事に付き合わされていた。畑というには狭く、家庭菜園というにはでかい……蔵の周り一面が畑。  それこそ「先祖が残した土地だから」と山の中腹に畑を作った。  春はじゃが芋玉ねぎ、夏は茄子に枝豆、秋はサツマイモに栗、冬は白菜大根水菜ほうれん草。世話をすれば、それなりに四季折々の採れたて新鮮野菜にありつけた。  しかし、父には本業があった。  人口2万人の役所の窓口業務が親父の本業。  だから俺達親子は週に一度、山の畑に行っては草を抜いたり種をまいたりと畑の世話をした。  農具しか置いてない蔵だから、その時だけは三和土に窯を作って火をくべ、鍋で飯を炊き、レトルトカレーを温めて夕飯にした。たまに肉を持ち込んで、BBQもした。寝るときは持ち込んだ寝袋で就寝という、キャンプ状態。  週一の畑仕事は、それなりに楽しかった。  意外にも高校生になっても、それは続いていた。  街の大学に進学しようと思っていたので、手伝える日々は残りわずか。  だからその日も、年老いた親父に代わって油臭いミニ耕運機で畑を耕す手伝いをしていた。
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