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バレンタインデー
「なあ、トイレ」俺はいった。
「なんだい?」トイレはいった。
「バレンタイン ああバレンタイン バレンタイン」
「どうしたんだい? バレンタインデーに、女の子からチョコをもらいたいのかい?」
「いや、そういうわけではないんだ。むしろその逆さ」
「男の子にチョコをあげたいのかい?」
「そっちではないな」
「すでに女の子からチョコをもらったということかい?」
「つまりそういうことさ」
「驚いたね。お礼はいったのかい?」
「まさか。恥ずかしくて、お礼なんていえないよ」
「いくら恥ずかしくても、お礼はいわないといかんだろう」
「トイレ、君は恋というものをわかっていないね」俺はいった。
「恋とは、その根底において、そんな道徳的なものではないんだよ」
「恋とはどういうものだと、君は思っているんだい?」
「思うに、恋というのは、恋愛子という素粒子の作用によって生じる科学的な現象だと俺は思うんだよ。恋愛子の働きで人は恋に落ち、逆にその反物質である反恋愛子の働きで、失恋するんだ」
「なるほどね、ふーん、へえ、ほお」
「なんだね」
「要するに、君はその恋愛子の作用によって、その女の子に恋をしているんだろう?」
「んぐっ」
「君は自分の気持ちに素直になるべきだね。チョコのお礼をいいにいきなよ。そして、彼女に気持ちを伝えるんだ」
「もし断られたら、どうするんだい?」
「バレンタインデーにチョコをもらったんだろう? 断られるわけがなかろう」
「もう彼女の気が変わってしまったかもしれないよ。俺がすぐにお礼をいわなかったばかりに」
「気が変わっていたら、それは仕方のないことさ。恋とはそういうものだろう。勇気を出しなよ。玉砕したら、そのときはまたここへ戻ってくればいいじゃないか」
「それもそうだな、トイレ、ありがとう。決心がついたよ。今すぐ彼女に会いにいくぜ」
「今すぐいくのかい?」
「ああ、思い立ったがなんとやらさ、なぜだい?」
「紙がないぜ」
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