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第1話
SNS上での私は、今どきのおしゃれ女子。一応顔出しはしているものの、加工まみれだ。
フォロワーからは「顔がいい」とか「美少女」とか評判が良いが、実際の自分とは似ても似つかないのは自覚している。
本当の自分を隠しながら陽キャを演じるのは一見難しそうに思えるが、クラスメイトのパリピを参考にすれば造作もない。
そう、私は嘘つきなのだ。SNS上では、理想の自分を演じている。今のアカウントを作ってからは、毎日フォロワーたちに構ってもらえるお陰かあまり寂しさを感じなくなった。
だから──私は今日も「愛莉」を演じる。一番可愛く写る角度や表情を研究して、写真加工アプリでゴリゴリに加工して。
そして、フォロワーに「今日も愛莉ちゃんは可愛い」と言われる度に満たされていくのだ。
『愛莉ちゃん、今日も可愛いね!』
『ありがとー! そういえばさ、昨日言ってたお店に今度行ってみたいんだけど……』
SNS上でフォロワーとそんな会話を続けながら、現実世界では推しの配信を観てスパチャを投げる。
──これが私の日常だ。リアルでは一緒に遊ぶ友人すらいない陰キャのくせに。配信者にガチ恋してるオタクのくせに。
正直、本来の自分を隠して明るく振る舞うのは気骨が折れる。
それでも偽り続けるのは、自分の居場所がSNS上にしかないから。私は、虚像だらけのこの世界でしか生きていけないのだ。
ある日の休み時間。
ソシャゲのデイリーミッションをこなしながら、私は物思いに耽る。
今日はどんな自撮りを上げようかな? などと考えていると、近くにいた男子二人が楽しげに話している声が聞こえてきた。
「今日の芽衣ちゃんマジでやばい! 髪切ってさらに可愛くなった!」
「本当、可愛いよなぁ」
夏川芽衣──学校一の美少女で、このクラスの陽キャ女子の筆頭だ。
窓際のほうに視線を移すと、女子グループの輪の中心で笑っている彼女の姿が目に入る。
奇跡的とも言えるビジュアルと、小柄ながらも均整の取れた体型。その可憐な姿は、まさに天使のようだった。
しかも、彼女は芸能活動をしており、弱冠十六歳にして映画やドラマで大活躍している天才女優だ。
芽衣がテレビに出演して活躍している姿を観る度に、ちっぽけで嘘まみれの自分に嫌気がさしてしまう。
彼女とは、住む世界が違う──私は、常日頃からそう感じていた。
芽衣は女子たちとの会話を終えると、目の前を通り過ぎた。……が、何故か踵を返したかと思えば私の席の前で止まり、興奮した様子で話しかけてきた。
「水谷さんが鞄につけてるそのアクキーって、ゲーム実況者の市松猫だよね!?」
アクキーを指差しながら、芽衣が凄まじい食いつきを見せる。
予想外の展開に困惑しつつも、私は頷いた。
「え……? ああ、うん。そうだけど……」
「やっぱり!」
「もしかして……夏川さんもゲーム実況とかよく見るの?」
「うん、結構見るよ! 実は私、結構前から市松猫さん推してるんだよね。声かっこいいし!」
芽衣はニコニコしながら話す。
まさか、彼女がこの界隈に通じているとは思いもしなかった。
彼女が市松猫を推しているということは、俗に言う同担だ。さらに、私はと言えばオタクの中でも一番厄介なガチ恋勢である。
本来ならば、断固として拒否をするべきなのだろうが……とてもじゃないけど、「同担拒否だから絡みたくないです!」なんて言えない。
何故なら──彼女は私の理想のビジュアルを有する女子であり、憧れの人でもあるからだ。
(なんなら、市松猫と同じくらい夏川さんを推していると言っても過言ではないんだよね……)
芽衣の可愛らしさに思わず見惚れていると、彼女が不思議そうに首を傾げる。
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