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3. この胸の高鳴り
修学旅行1日目。
私達は、遊園地へバスで向かった。
目的地までは、3時間ほどかかるらしいからバス酔いを少しでも緩和するため休むことにした。
さっき飲んだ酔い止めが少しずつ効いている事が分かる。
徐々に、睡魔が私を夢の世界へと誘っているようだった。
しばらく立った頃、誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「姫和、ひーよーり。起きてー、遊園地着いたぞ。」
「ほえー、早いね。うーん、おはよっ神龍…くん。」
体を起こして、神龍君が差し伸べてくれた手を取ると、起き上がらせてくれた。本当に申し訳ないよ。
貴重品や鞄などを持って、バスを降りると雲一つない青空が広がっていた。
青空に浮かぶ、太陽は私達を照らし出しているようでとても眩しい。
「はーい皆さん、今からこの遊園地をバックに記念写真を取ります。なので、班ごとに並んで3列を作ってください。それでは、移動してください。」
と、先生が指示を出していた。
だけど、酔い止めを飲んだ副作用で頭が少し痛い。
「姫和ちゃ〜ん、葵ちゃ〜ん。女子同士並んで撮ろ〜!」
「うん、そうだね!」
「私達は、ダブルピースにしよっか!」
「「うんっ。」」
初めて、葵ちゃんとハモったからか、お互いに目が合ってじーっと見つめていた。
「じゃ、とりまーす!
みんな〜、笑顔でね。ハイ、チーズ!」
先生の声と共に、カメラのフラッシュが点滅する。その光が眩しくて思わず、目を閉じてしまった。
でも、上手に取れたと思う。
「これから、自由行動です。友達、グループのメンバーと仲良く楽しんできてください。
では、行ってらっしゃ〜い!」
「じゃ、皆で回りますか!
最初、どこ行きた〜い?」
と、声を上げたのは琉斗君だった。
「はい!」
「では、琥珀殿。どこに参りたいのかね?笑」
「プフッ、えっと、ジェットコースターでござる!笑」
2人の漫才に、みんなも笑っている。でも、私にはその笑い声が頭に響いて痛い。
そう考えていた時、トントンと肩をつつかれた。
神龍君だった。
「あっ、神龍君、どーしたの?」
私は、驚きのあまり小さな声しか出なかった。
「姫和さ、どこか具合悪いだろ?」
「ど、どうして?」
「だって、顔色悪いしいつもの姫和じゃない。完全に無理してる。」
「そっか。実はね、酔い止めの副作用が少し強くて頭痛が…。でっ、でもすぐに治ると思うよ!
だから、大丈夫だよー!」
「大丈夫じゃねーだろう。でも、皆に迷惑をかけたくないから無理してるんだろ?」
「う、うん。」
すると、神龍君は私の手を掴んで皆に言った。
「おーい、琉斗達。俺ら、ちょっと班抜けるわ。しばらくしたら戻るから皆でジェットコースター行ってきて。」
「えっ、急にどーしたの?」
琥珀ちゃんが、不思議そうに私達を交互に見ている。
「ひ・み・つ だよ。 じゃあ、また後でな。」
「あっ、うん。また後で。」
琥珀ちゃんや葵ちゃん、勇心君、琉斗君はまだ不思議そうに私達を見ていたが、その事を知らずに神龍君は私の手を握って誘導してくれた。
数分歩いて、着いたのがベンチがあってその上には葉が自然に作り出した屋根があり、とても落ち着ける場所だった。
私達は、ベンチに腰を下ろした。
すると、
「あのなー、大体姫和は無理しすぎなの。自分で分かってる?」
「そ、そんなつもりじゃないの。」
神龍君は、はぁーとため息を漏らした。
「皆に、迷惑かけたくない気持ちは分かる。だけどな、俺には頼って欲しい。心配になる。」
その言葉に、私はハッと心が暖かくなるのが分かった。
それだけではなかった。
神龍君の瞳に、私が反射されて映し出されている。
その、真っ直ぐな視線に私は、ドキンと胸が音を立てたような気がした。
これは一体なんだろう?
この胸の高鳴りは…。
「ありがとう。」
すると、なぜか目から大粒の涙が溢れ出てきた。
「おっ、おい。どーしたんだよ?
俺、なんか変なこと言ってしまったのか?」
「ううん。うっ、嬉しくて。
私ね、お母さんとこの街に小学6年の時引っ越してきたの。それから、しばらくたった頃に心臓病にかかって、中学3年生に上がってから少しして亡くなったの。それから、私は、家で1人で辛かった。いつもならお母さんが私を慰めたり笑わせてくれたのに…。
って、ごめんね…。せっかくの修学旅行なのにこんなに重い話をしちゃって…。」
神龍君は、泣いてる私の背中を擦りながらずっと話を聞いてくれた。
「話してくれてありがとう。
姫和辛かったよな…。今まで誰にもいえずここまで来たんだよな。姫和は、よく頑張った。偉いよ。」
そう言って、頭を撫でてくれた。
私は、その優しさにまた涙を流した。
そして、急に視界がぼやけてきて神龍君の膝へと倒れ込んだ。そして、そのまま眠ってしまった。
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姫和は、今までこんなに辛いことを乗り越えてきていた。
なのに、俺は自分のするべきことを何もしていない。
そう思った。姫和に気付かされた。
「ありがとう、姫和。」
泣き疲れて眠ってしまった姫和を見ながらそう呟いた。
2時間ほど経ってから、姫和は目が覚めたみたいだった。
「おはよう、神龍君。」
そう、俺に優しく笑いかけてくれた。
あのあと、俺も眠ってしまい鮮明には覚えていない。
だけど、気づいてしまった。今、彼女の笑顔を見た瞬間、俺の胸は一瞬だったが確かにドキドキと脈を打っていた。
この胸の高鳴りは一体…。
答えを探す暇もなく、俺たちは出発前のバスへと急いで向かっていた。
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