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遥柾はちょっと強い口調なのに、聞き取れないくらいくぐもった小さな声で言う。
「寒かったでしょ。早く入って」
美空は手をのばし遥柾の髪についている雪を払った。遥柾の腕を引っ張ると、ポケットに手を入れたまま遥柾が部屋に一歩、二歩入ってきて立ち止まったので、美空も腕を引かれるように立ち止まって振り返った。
「どうしたの……?」
そんな生真面目な顔をしないで。不安になるから。美空は明るく誤魔化したかったのに、うっかり遙柾の顔を覗き込んでしまった。
遥柾は心配そうな何か聞きたいそうな、気まずそうな、苦しそうな顔で美空を見た。
「今日、ごめん……」
悲しくさせて、一人にさせて。別れようかと思ったのに。そんな顔でごめん、って言うなんて。美空の目から涙がこみあげてきた。さっきまで泣いてなかったのに。
――反則だよ……
やっぱりまだ側にいたい。だったら泣くのは、もう少し我慢だ。美空は奥歯をかみしめて涙をこらえた。
「ポケットから手を出したら許してあげる」
振り返って、明るく笑いかける。ほら。いつも通り。
「そっか。ごめん」
遥柾はポケットからゆっくり手を出して、美空の前に差し出した。てのひらに小さな白い小箱が乗っている。王冠のロゴのついた箱を開けると、中には白い雪の形のピアスが入っていた。美空の白いコートに合いそうだ。
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