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「可愛い! なあに? 少し早めのクリスマスプレゼント?」
「いや、ただ……クシャクシャになっちゃったから」
「クシャクシャって?」
「うん。だからさ、あれだけじゃなって思って。来るのが遅くなったのは、ピアスを選んでいたせいだけど、ポケットに手を入れたままだったのは、これのせいじゃない」
遥柾はもう一度ポケットに手を入れて、折りたたんであった薄い紙を開いて差し出した。
美空は折れ目のついた婚姻届けを見て、目を見開いた。笑おうとしたのに、さっき飲み込んだ涙が溢れてきた。
「渡そうと思ってポケットの中でずっと持ってて。クシャクシャになっちゃったから、新しいの一緒にもらいにいこう?」
こんな時まで口下手なの? 肝心な言葉を忘れてる。態度も言葉も不器用な人は本当に困る……。慌てて後ろを向くと、遥柾が美空を後ろから抱きすくめた。
「うん、って言って」
だけど美空がうん、と言う前に遥柾が美空の目にそっと口を寄せた。
「しょっぱい」
くくっ、と美空は笑った。どうしてこんな時に、そんなことを言うんだろう? だけどそんなちょっとずれてる所も好き。涙を含んだ声で笑いながら答える。
「うれし涙でも、しょっぱいんだね」
「さっきの、映画さ」
「映画?」
「うん。たぶん、あのあと、男がもどったと思う。もどって、彼女のこと抱きしめてさ。ずっと一緒にいるんじゃないかな」
思わず、ふふっと笑った。悲しい話が苦手で、ハッピーエンドが好きな遥柾らしい。
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