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窓の外には雪が降りしきっている。映画のラストシーンみたいに。
「美空、腹減った。何か食べさせて」
「どうして……。飲みに行ったんじゃないの?」
「行ってない」
「ん?」
「行ってないんだって」
「え? あ。あーっ、もうっ。飲みに行くなんて、なんでそんな嘘……」
「だってさ、言っちゃったら、サプライズにならないだろ?」
「……もう……ばか」美空は息をちょっと息を吸い込んで言った。「あのね、雪、嫌いじゃないよ」
だって今日の一日は、きっときっと、いつまでもとけない雪になる。
ねえ、あとでケーキを一緒に食べようね。ケーキは丸くて白いから、小さなウェディングケーキみたいでしょ? ケーキ入刀のマネっこをしよう。そのあとビールで乾杯しよう。遥柾の好きな、「タコわさ」だって買ってあるんだから。
心の中にあふれてくる言葉は声にならない。だからお願い。今は誓いのキスをして。
遥柾が黒いダウンジャケットを広げて美空を包み込んだ。美空は暖かな腕の中でくるりと体を回し、遥柾をぎゅっと抱きしめた。その不器用な態度も言葉も、まるごとぜんぶ。
(おわり)
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