雪がふっていた

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 映画館を出ると、煉瓦造りの歩道に大きなクリスマスツリーが飾ってあった。白一色のクリスマスツリーが(まぶ)しくて、美空(みく)は足を止めた。宝飾店の店先らしく、上品で豪華なツリーだ。 もみの木の枝先には雪のデコレーションがほどこしてあり、丸い玉やリボンなどのオーナメントも全て白い。プレゼントボックスをかたどったオーナメントに、さりげなく王冠をデザインした店のロゴが描かれているのは、「クリスマスのプレゼントは当店で」という意味だろう。  クリスマスツリーはフォトスポットになっているらしく、ツリーのまわりでカップルや女の子たちが自撮りしている。美空(みく)もスマホを取り出そうとしたが、隣にいたはずの背中が遠ざかるのに気が付いて、写真はあきらめ小走りに追いかけた。 「ちょっと待って……」ようやく黒いダウンジャケットに追いついて、並んで歩く。「映画、面白かったね?」  暖かい建物から外へ出たので、空気が冷たい。バッグの中の手袋が頭をよぎった。けれど美空はコートの袖をそっと引っ張るだけにした。 「うん。あのあと、どうなるんだろうなあ……」
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