雪が降る空を見上げて

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雪が降る空を見上げて

「ごめん、今日、会えなくなったわ」  あいつからの突然の電話に、わたしは奈落の底に突き落とされた。  もうこれで三回目だ。  つまりは、そういう事なのだろうけど。  ずるい。 「さよなら」すらも言ってくれないなんて。    はあっ  思わず吐いた溜息が白く染まる。    わたしは、待ち合わせ場所の噴水の周りにあるベンチに腰掛けたまま、ライトアップされた美しい街を眺めた。  街には幸せそうなカップル達が、仲睦まじく腕を組んで歩いている。  わたしは、それを見つめながら同じ場所に居るのに、天と地ほども状況が違うよなぁ、と今の自分が悲しくなった。  羨ましいやら、恨めしいやら、もう、ドス黒い感情しかない。それが心の中でグルグルと渦巻いて、その場から腰を上げることも出来なかった。  大体、あいつから声を掛けてきたのに……  勝手に好きになって、わたしをその気にさせておいて、二人でたくさんの想い出を作って、もう、あいつなしではいられなくなってしまったというのに。  あいつの心が、わたしから離れていってしまったのは、一体、いつの頃からなんだろう?  そんなことを、ツラツラと考えている内に、周りに居た人達も、一人減り二人減りと、次第に数を減らしていき、残すは数名ばかりになってしまった。  流石に冬の凍てつく寒さが身に沁みた。  そろそろ帰らねば、と思ってベンチから腰を上げようとした時、ハラリと、白いものが、手の甲に落ちた。  それは、あっ、と思っている間に、スーッと消えてしまう。    雪?  空を見上げると、果たして、白い雪がパラパラと舞い落ちてきた。  漆黒の夜の闇の中から、止めどなく溢れる白。  それは、やがて勢いを増していき、遂には、闇を白に塗り替える。  綺麗などと感傷に浸る間もなく、雪は乱暴なまでに夜の街を白く埋め尽くしていった。  願わくば、わたしの、この黒く染まった心の闇も、白く埋め尽くしてくれ。  わたしは強く願い、雪が降りしきる空を見上げた。  おしまい  
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