119人が本棚に入れています
本棚に追加
これでスマホを出していないのは私だけ。
3人の視線が私に集まった。
この流れで空気をぶち壊すみたいな事を言うのは気が引けるけれど……
「すみません……私は遠慮させて頂きます」
途端に勝沼さんが空気読めよと言いたげな表情になった。
それでも私はスマホを出す気は一切ない。
「すみません」
心の中で“私だけノリが悪くて……”と付け足す。
空気が悪くなりかけたものの、それを上條さんが明るく「そっか」打ち消した。
「仕事以外で男と連絡先交換するの、彼氏がいい顔しない感じ?」
私が否定するよりも早く島津さんが反応する。
「伊原さん、彼氏いるんですか?いないって言ってたじゃないですか!いつの間に?!」
私が否定する間もなく、掴みかかる勢いで詰め寄る島津さん。
「テキトーにカマ掛けてみたんだけど当たり?まぁ、伊原さんみたいな子に彼氏いない方がおかしいけどさ」
呑気に笑う上條さんの隣で勝沼さんが「それなら仕方ないか……」と頷いている。
「いつですか?いつ彼氏なんて作ったんですか?!ついこの間もお互い独り身だもんねって言い合ってたじゃないですか」
「あ、はは……その後くらいにちょっとありまして……別に言う必要ないかと思って……」
「言って下さいよ!」
島津さんの血走った目が怖くて、堪らず視線を逸らすと、上條さんと目が合った。
「その感じだと、彼氏が出来たのはごく最近っぽいね」
私と島津さんのやり取りを見て微笑ましそうに笑う彼は「でもさ」と続ける。
「他の男と繋がるの嫌がる男って、器が小さいよね。俺はただ伊原さんと友達になりたいだけなんだけど」
冗談っぽくサラリと言われた言葉ではあったものの、久世さんを侮辱されたみたいで聞き捨てならなかった。
「………彼が嫌がるというか、単に私が嫌なだけです。よく知りもしない人と連絡先を交換するの抵抗あるし」
別に久世さんはこんな事でどうこう言ったりしないと思う。
もしかしたら多少は気にするかもしれないけれど。
久世さんの存在があってもなくても、彼等とLINEで繋がろうと思わない。
上條さんと勝沼さんと親しくなるつもりはないから、連絡先を交換する必要性を感じないだけ。
「仮に交換しても私からLINEする事はないので」
上條さんの笑顔が固まったと同時に、空気が冷えるのを感じた。
「あ………そう……ははっ、伊原さんってクールだね」
ぎこちなく笑って上條さんがその場を取り繕う。
島津さんがむくれながらそっとスマホをバッグに戻しているのを横目で確認し、小さく息を吐く。
それから
「空気が読めない奴ですみません」
自虐的に言って笑ってみせた。
最初のコメントを投稿しよう!