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「勝沼くん、島津さんの事ずっと狙ってたみたいだよ」
「へぇ」
「なんかあの会社、社員と派遣は仲良くしちゃいけないような暗黙のルールがあるみたいだから、中々声を掛けられなかったみたいでさ」
「まぁ、確かに……どことなくそういった雰囲気はありますね」
上條さんと二人、店の外壁に凭れながらたわいもない話をしていると突然
「で、さっきの電話で久世くんは何て?」
と、冗談めいた口調で軽く切り出される。
あまりに自然な感じでサラッと聞いてくる上條さんに対して、すぐさま彼から視線を逸らした私の振る舞いは不自然なもので。
動揺が彼にバレたのは明らかだった。
「何の事ですか?」
「またまたぁ~隠さなくてもいいのに。思いっきり電話の主に久世さんって呼び掛けてたじゃない」
「…………」
やはり、電話の相手が久世さんであった事を把握しているようだ。
盗み聞きとはいい趣味してる。
どう答えようか考えている間に、視界が急に暗くなった。
今の今まで隣にいた筈の上條さんが私の目の前に移動した為だ。
そしてご丁寧に壁に手をついて、私が逃げられないよう柵まで作ってくれている。
所謂壁ドンされている状況。
「まさかとは思ってたけど、伊原さんが久世くんの大事な“瑞希ちゃん”だったなんてね」
上條さんはお互いの鼻先が触れる位まで距離を詰めてくる。
暗がりの中とはいえ、至近距離に顔を近付けられたら表情はしっかりと把握出来てしまう。
「いつの間に?いつから?てゆーか、久世くんのどこが良いの?久世くんみたいな地味ダサくんに瑞希ちゃんは勿体ないと思うよ」
上條さんから発せられる久世さんへの侮辱は勿論の事、間近にある彼のにやけ面が大変不快。
「久世くんにしつこく言い寄られたとか?仕方なく付き合ってる感じ?もしそうなら先輩の俺から厳重注意しておくよ」
激しい質問攻めにウンザリさせられる。
馴れ馴れしく瑞希ちゃんなんて呼ぶなと喉元まで出かかっているのを懸命に堪える。
「………逆です。私がしつこく迫りました」
「へぇー」
意外そうに……けれどもどこか楽しげな反応を示す上條さん。
「久世くんと付き合うメリットある?」
私にとって極上のメリットがあるから久世さんに迫った訳だけれど、それを上條さんに伝える気は更々ない。
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