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「かわいい女の子、ね」
「そう、かわいい女の子」
「私ってかわいいの?」
「まあ、かわいいと思う」
「まあ?」
なぜか、今日はぐいぐい押されている。
「ん?……うん」
実際のところ、〈まあ、かわいい〉どころではない。ものすごくかわいい。好きだからこそ百万倍かわいい。
しかし、それを伝えたところでどうなるわけでもない。キモいと思われるのが落ちだった。
彼女はじっと僕の顔を見て、急にからからと高い笑い声を上げた。なぜ笑っているのかはわからないが、笑顔は一億倍かわいい。とにかくかわいかった。
昔から考えていることが顔に出にくいたちだった。僕がいつも何を考えているかわからないと、友人からだけでなく家族にさえ言われた。だが実際は、こんなことしか考えていない。
彼女はものすごくかわいい。
彼女がかわいくてかわいくて、もうずっと彼女の隣で彼女の笑顔を見ていたい。それだけでいい。
「……いいよ」
「何が?」
「私の隣でずっと私を見ていていいよ」
僕の細っこい体から一気に血の気が引き、全身が硬直するのがわかった。もしかしたらもしかする……のだろうか。
「だから最初からそう言ってるじゃない」
彼女は僕を見上げ、いたずらっぽい笑みを浮かべた。目が三日月のようになって煌めいている。
「嘘だろ……」
「嘘じゃないって。キモいとも思ってないし」
彼女はまた小悪魔のような微笑みを見せた。
くそ、かわいい。嘘だと思いたい。いや、でもかわいい。嘘でも何でもこのかわいさに嘘偽りはない。もう全てがどうでもよくなった。だってかわいいのだから。
彼女は何も言わなかったが、またふっと笑った。かわいい。かわいすぎる。
すると彼女は、さらに大きな声を上げて笑った。
はぁ、かわいい。
いつまでもいつまでも笑い続ける彼女を、僕はいつまでも見つめ続けた。
(了)
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