Impossible n'est pas français.

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「フレッドとは同期で、何故か気が合ってな。寄港地で飲むこともよくあった」 「類は友を呼ぶとは、よく言ったもんだ」 「私にフレッドほどの裏はないよ」 「腹黒さは引け取らねぇだろ」 「それはまあ、否定できないな」  くすくすと笑うハーヴィーは、フランスマフィアの中にあってただひとりのイギリス人だ。それでも、こうして話す姿は堂々としたもので、メイドメンバーという肩書も頷ける。いやむしろ、開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。クリストファーやフレデリックでさえ、ハーヴィーの機嫌を損ねると収益が減ると言って憚らない。それが、この男にとっては二の次の仕事だというのだ。 「なんつーか、あんたがロイとやってけてんのも納得出来るな」 「それは、僕に喧嘩を売ってるのかな?」 「っ、ロイ……」 「聞いてたのかよ」 「もちろんだよ。君が万に一つでもハーヴィーを口説く事があれば、すぐにその首を刎ねる準備は出来ているからね」 「はッ、誰が男なんざ口説くかよ」  辰巳にとってフレデリックはただの例外だ。 「だいたい手ぇ出したのはてめぇだろうが。それ以上ふざけたこと吐かしたら舌切り落とすぞタコ」 「手を貸そうか?」  嬉々として便乗するフレデリックに、辰巳の戦意はバッサリと()がれた。迂闊だったと後悔したところでもはや遅い。 「お前は黙ってろ阿呆が」  肩に乗ったフレデリックの頭を、無骨な手が押し返す。 「あなたもだ、ロイ。誰もがあなたのように男を口説くとでも?」  諌めるハーヴィーの腰をロイクは引き寄せた。 「まさか。けど、僕よりも辰巳の肩を持つのは少し妬けるね」 「先に煽ったのはあなただろう」  溜息と共に吐き出すハーヴィーを、ロイクがじっと見つめていた。 「それ以上、僕の忍耐力を試すのはいただけないね」 「っ……ロイ…」 「僕に嫉妬されたくないのなら、もう少し言葉を選んだ方が良い」  ハーヴィーの唇を節の高い指がゆるりとなぞる。いつの間にか、周りの音は耳に入らなくなっていた。 「誰に口説かれたとして、あなた以外に私が靡くとでも?」 「さあ。それは僕が決める事じゃない」 「だったらこの話はこれで終わりだ。私が誰かに口説かれて、結果が出るまで待っていれば良い」  唇を辿る指先に軽く口付けを残し、ハーヴィーはロイクの胸へゆったりと背中を預けた。布地越しに伝わる熱を心地良く感じてハーヴィーは目を閉じた。 「……参ったな」  ぽろりと零れ落ちた声と共に、逞しい腕がハーヴィーを包み込む。 「誰にも、渡したくない」  ハーヴィーの耳許に吐息が囁く。それは、とても熱かった。    ◇   ◇   ◇  その頃、会場の中でも僅かばかり離れた場所にあるソファには、シルヴァンとウィリアム、そしてガブリエルの姿があった。完全な縦割り社会の中、比較的年齢の若い彼らのテーブルが盛り上がりに欠けるのは、致し方のない事だったろうか。 「あーあ、親父ってば抜け出すの早すぎない?」  金色の頭を引き連れて、会場を横切る辰巳の姿をガブリエルは視線だけで追う。 「あれはまぁ、仕方ないんじゃないのか?」  応えるシルヴァンの意識は、今し方辰巳とフレデリックの居たソファにあった。 「ロイとハーヴィー、あんなに仲良いんですね」
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