Impossible n'est pas français.

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 ゆったりとソファに腰を下ろすロランの前に、クリストファーがグラスを差し出す。 「ありがとうございます」 「あいつの相手は面倒だったろう? たまには労ってやらないとな」 「それは、ありがとうございます。それはそうと、あなたがそんな真似をするのは珍しいですね」 「そんな真似?」 「随分と、寛いでいらっしゃるようなので」  微笑みを浮かべるロランの視線がマイケルへと向かい、クリストファーは何を言われているのかを理解した。 「おかしいか?」 「いえ。結構な事かと」  まるで子供を見るような目を向けられて、クリストファーは肩を竦めた。年齢的なものもあるのだろうが、どうにもロランには頭が上がらない節がある。 「ロランは、昔からクリスを可愛がってるからな」  クリストファーの心持を知ってではなかろうが、マイケルの言葉にロランはやはり目を眇めて応えた。 「あなたが思うほどではありませんがね」 「そういう事にしておこう」 「おや、そんなに私はクリストファーを気にしているように見えますか?」 「変な意味じゃないぞ」  自身を挟んで交わされる会話を、クリストファーは黙って聞いていた。口を挟むような内容でもなければ、元より口数が多い方でもない。 「分かっていますよ。クリストファーの名誉のために言っておくならば、私と彼の間には何もありません」  クリストファーの昔の遊び癖は、もちろんマイケルも知るところである。さすがに、これにはクリストファーも黙ってはいられなかった。否、マイケルにへそを曲げられては堪ったものではない。 「わざわざご丁寧にどうも」 「これは、出過ぎたことを申し上げたようですね」  わざとらしくロランが肩を竦めたちょうどその時、その背後を通りかかる人物にマイケルの視線がすぃとあがった。 「ガブリエル」 「やあマイク。って、あれ、ロラン?」  てっきりヴァレリーの元に居るものだと思っていた人物の姿に、ガブリエルはソファの背凭れに両手をかけた。首だけでヴァレリーの席を見遣り、次いでロランを背後から覗き込む。 「独り身には、ちょっと居場所がないよね」 「そうですか? 私は、結構楽しんでいますよ?」 「あっそ」  つまらなそうに言いながらもガブリエルは行儀悪く背凭れを飛び越えてロランの隣に陣取った。 「クリス、お邪魔しても?」 「座った後で聞くことか?」 「クリスには事後報告が手っ取り早いと、父上が言っていたからね」 「ロクな教育を受けていないようだな?」  クリストファーが呆れ返るのも無理はない。ボスとアンダーボス。クリストファーの方が立場は上のはずだが、フレデリックの我儘は健在である。 「教育といえば、クリスはシルヴァンにあまり関わっていないみたいだね」 「ガブリエル、口が過ぎますよ?」 「ええ? なら、ロランが俺の口を塞いでみる?」  あっけらかんと言い放つガブリエルに、ロランは溜息をひとつ零した。親子ほども年の離れた若者の言う事など、真に受ける方がどうかしている。だが。 「塞がれないと分からないというのなら、その減らず口を塞いで差し上げましょうか」  細い指に頤を持ち上げられたかと思えば、次の瞬間にはロランの唇がガブリエルの口を文字通り塞いでいた。 「ぅ、……っ!?」
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