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マイケルは慌ててクリストファーの口を両手で塞いだ。それはもうベチリと音がするほどに勢いよく。
静かになった部屋に、マイケルの叫びがやけに大きく響く。が、当然の如くマイケルの手はあっさりと退けられた。もちろんクリストファーの手によって。
「急に何をするんだ? 苦しいだろう」
「お前が馬鹿なことばかり言うからだろうっ」
「はん? 俺は本音を言っただけだ」
悪びれもせず言い放つクリストファーに、マイケルは頭を抱えたくなる。せめてもの救いといえば、クリストファーのこんな言動がふたりきりの時に限られるという事だろうか。
ともあれ、これまで何度言ったところで是正する気のないクリストファーに、マイケルは毎回声を荒げる羽目になる訳である。というよりも、聞いている方が恥ずかしい。
そんな事を考えていれば、掴まれていた手を口許へと運ばれる。ちゅっと微かな水音を響かせて、掌に口付けたクリストファーは微かに喉を鳴らした。
「手まで熱い。そんなに恥ずかしかったのか?」
「分かってるなら自重しろ」
「そうだな……。ミシェルから誘ってくれるって言うなら、考えてやろう」
「なっ?」
そう言って、あっさりとクリストファーが立ち上がる。向かった先はもちろん寝台の上だ。ごろりと躰を横たえて、肘を立て枕代わりにするその姿をマイケルは唖然とした顔で見つめるほかなかった。
「どうした? 久し振りに誘ってみろよ」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるクリストファーがまるで、付き合い始める前に戻ってしまったかのように見える。
「クリス……」
「さあミシェル、ゲームの時間だ。たっぷり俺を楽しませろ」
反論を許さない声に、マイケルは震える足を踏み出した。
――怖い……。
いう事を聞かなければと、それだけが頭の中を占めていく。
怖ろしくとも、クリストファーの言う事を聞けば気持ち良くなれるという事をマイケルの躰は忘れてはいなかった。背筋を這い上がるのが恐怖なのか快楽なのか分からなくなる。
すぐに寝台へと行き当たったマイケルは、ゆっくりと足を上げた。膝をかけた寝台が軋みを上げる、その音がやけに大きいような気がして、マイケルは今自分が何をしようとしているのかを余計意識することとなった。
「ほら、そのままこっちへ来い」
まるで操られてでもいるかのように、思考とは別に躰が動く。久しく忘れていた感覚に、マイケルは紛れもない期待を覚えていた。
「ク……リス…」
「そこまでだ」
求めるように手を伸ばす。だが、その手は肌に触れることなくクリストファーの声にピタリと止まった。それはまるで、触れてはならないと本能が告げているかのように。
「さあ、どうするんだ? 欲しい時はどうすればいい」
「ぁ……、触れさせて……ください」
「良い子だミシェル。お前にくれてやる」
傲慢なクリストファーの声は、まさしくマイケルが求めていたものだった。震えるほどの喜びに、躰を突き動かされる。
「っ、クリス……!」
「くくっ。そうがっつかなくとも逃げやしない」
喉を鳴らして嗤うクリストファーの唇を奪う。与えるように差し出された舌を吸い上げ、誘われるままに歯列を辿る。褒めるように髪を撫でられるだけで嬉しくて、気持ちが良くて、どうしようもない。
「クリスっ、……クリスっ」
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