Impossible n'est pas français.

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「無理にお酒を飲む必要はありませんので、飽きたら言ってくださいね」  年若いガブリエルを気遣うようにそう言って、隣に腰を下ろすロランをガブリエルは見遣った。向かいにも、席はある。 「何でとなり?」 「あまり、顔を見ながら話すような事でもないでしょう」 「よく分からない理屈だな」 「そうですか?」  納得させる理由を告げるでもなく、かといって移動しようともしないロランにガブリエルは軽く首を振った。  ――調子狂うな。  それは、紛れもない本心だった。そもそも、普段のガブリエルはフレデリックの真似をしているが、今はといえば素のままである。ロランに言われたから、という訳でもなかったが、わざわざ仮面をつける必要もないと思った。 「それで? 何から逃げるっていうの」 「もちろん、ヴァレリーですよ」 「え?」 「敵対する組織にでも入らない限り、彼の元に縛り付けられるのは目に見えていましたからね」 「は? それだけ?」 「そうですが、何か?」  あまりにもあっけない内容に、ガブリエルは唖然とするしかなかった。調子が狂う。まさしくその通りである。 「はあ? あんなに深刻そうに言っておいて、たったそれだけ?」 「深刻そうとは、これはまた妙な事をおっしゃいますね。私がいつそんなそぶりを見せました?」 「場所移すとか、顔見ながら話すことじゃないとか、散々もったいつけてたくせに」 「それは、そうでしょう。会場にはコルスの方々も多いですし、向かい合ってするほど重要な話でもないでしょう?」  言われてみればその通りではあるのだが、いまいち納得できない。ガブリエルは、盛大な溜息を吐いてソファにぐったりと沈み込んだ。 「はぁー……、ほんと、調子狂う」 「その割に、寛いでいらっしゃるようで安心しましたが」 「何それ、嫌味のつもり?」 「まさか。あなたはいつも無理をなさっていますからね、これでも心配しているのですよ」  これが他の誰かに言われたのであれば、ガブリエルは鼻で笑い飛ばした事だろう。だが、何故かロランの言葉はすんなりと受けれられた。 「背伸びしてて悪かったな」 「模倣は、れっきとした学習ですよ。あなたは何も間違っていない。けれど、たまには息抜きも必要です」  それに……と、穏やかな声が振り返る。 「今のあなたも、フレデリックに似ているといえば似ているようなものです。拗ねた姿など特にそっくりで……」  くすくすと笑われてしまえば返す言葉もない。ガブリエルは、勢いよく躰を起こした。テーブルに置かれたグラスを取りあげ、一気に煽る。 「っ、……はあっ。それ、父上の耳に入ったら首が飛ぶよ?」 「さあ、どうでしょうか。他でもないあなたを相手に話すくらいは、きっと許してくれるでしょう」  さらりと告げるロランには、どうやら危機感はないらしい。 「ロランってよく分からないな」 「他人に興味があるのですか?」 「ない。けど、ロランにはちょっと興味沸いたかも。フレッドの次くらいに」 「それは、困りましたね……」  伏し目がちに呟くロランの頤を、ガブリエルはつぃと持ち上げる。同じグレーの瞳が、互いを映し出した。 「いったい何の真似ですか?」 「とりあえず、顔をしっかり見ておこうと思ってさ。あんた、いつも伏し目がちだし」 「過ぎた好奇心は身を滅ぼしますよ」 「この程度で滅ぶようなら、俺もそれまでの男だったって事だね」  そう言ってガブリエルはその顔に笑みを浮かべた。それはもう、フレデリックによく似た顔で。 EMD
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