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「どうした? クリス」
「何でもない」
「そうか?」
そんなふたりの遣り取りを遠巻きに眺めているのは、クリストファーの養子であるシルヴァンと、その恋人であり側近のウィリアムである。
「フレッドは、我儘なんですか?」
大型犬を思わせるウィリアムの悪意のない質問に、シルヴァンはどう答えたものかと思案する羽目になった。否、否定するタイミングを逃したというべきか。
だからといって肯定するにはフレデリックの視線が痛い。
「まあ、我儘かどうかはさておき、素直……なんじゃないか?」
些か苦しまぎれに言えば、ウィリアムは嬉しそうに微笑んだ。
「そうですよね! 俺たちとの約束もちゃんと守ってくれるし、フレッドは優しいですっ」
そんなウィリアムの声に吹き出したのは、もちろん辰巳とヴァレリーである。広いフロアに響くほどに、遠慮もなく笑う二人に視線が集中する。
「おい辰巳っ、……っ聞いたか?」
「ばぁか、っ……ありゃいつも、っくく」
笑い過ぎて言葉が出ない辰巳へと、ウィリアムは眉根を寄せた。
「あぅうう、また俺、変なこと言いましたか?」
縋るようにシルヴァンへと手を伸ばすウィリアムである。大きな手をそっと握ってはみたものの、シルヴァンに返す言葉はなかった。困り顔のシルヴァンの肩に、労うように手を乗せたのはガブリエルだ。
フレデリックの養子であるガブリエルもまた、メイドメンバーの一人である。
「番犬が天然だと、躾も大変だね」
「っ、もう少し言い方があるだろう」
「ええ? だってウィリアムはどこからどう見ても犬だよね」
違うの? と、悪びれもせず首を傾げるガブリエルを、シルヴァンは些か冷たい視線で睨んだ。辰巳やヴァレリーが相手ならまだしも、立場の対等なガブリエルに揶揄われるのは良い気分ではない。
「なに険悪な空気醸し出してんだよお前ら」
不意に聞こえてきた声にガブリエルが振り返れば、イヴォンの姿があった。学生と見紛う童顔と、小さな躰。だが、ヴァレリーの元でアンダーボスを務める、歴としたフランスマフィアだ。
組織は違えど、どちらもフランスマフィアの後継者という立場にある若者たちは、イタリアとの共闘を機に親交を深めつつあった。
百六十センチに満たない身長のイヴォンを、ガブリエルが見下ろす。呆れたように腕を組むその姿は、だがどこか微笑ましい。
「聞こえちゃった?」
「そういう性格直せよな。そんなとこまで金髪の真似してると、友達なくすぞ」
「あっははっ。それは、君の事?」
「そうだっつったら直すのかよ」
「どうかな。試してみるかい?」
馴れ馴れしい仕草で肩へと掛かったガブリエルの腕を、イヴォンは無言で見つめた。
「そこまで人に興味ないだろ、お前」
「まあね」
本人を目の前にしておきながら、取り繕うこともなく言い放つガブリエルにイヴォンは溜息を吐いた。
「俺、お前のそういうとこ嫌い」
「父上に似てるから?」
にこにこと嬉しそうに笑うガブリエルの腕を掴むと、イヴォンは無造作に放り投げた。
「金髪のがマシ」
「へえ? それは、喜ばしいことだね。そろそろ僕にもイヴって、そう呼ばれてくれる気になったかい?」
「ッ!?」
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