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ガブリエルに良く似た、けれどもガブリエルよりも良く知った声が聞こえて、イヴォンはゆっくりと振り返った。
「マシってだけで嫌いなのは変わらないっての。浮かれてんじゃねーよバーカ」
思い切り嫌そうな顔のイヴォンに、フレデリックの顔が微かに引き攣る。その肩に、辰巳の無骨な手が乗った。
「お前も懲りねぇな。嫌われてんだから諦めろよ」
「この僕に敵意を向けておいて、生きていられると思われるのは癪だね」
「だったら好かれる努力をしろよ」
「努力!」
「得意だろ?」
ニヤリと口角を上げる辰巳の胸に、フレデリックはぽすりと金色の頭をもたせかけた。
「キミがご褒美をくれるって言うなら、してあげなくもない……」
唸るような声が胸元から聞こえて、辰巳は苦笑を漏らした。
「そんなモンでお前が努力するってんなら、安いものか?」
「おい辰巳、後で泣きを見るのはお前だぞ」
嫁の頭を撫でる辰巳へと、きっぱりと言ってのけたのはクリストファーだ。
「泣きを見るとは聞き捨てならないね」
「兄貴の我儘は底がないからな」
「いつからキミは、そんなに可愛くない事を言うようになったのかな?」
ジロリと胡乱げな視線を向けるものの、フレデリックは辰巳の腕の中から動きはしなかった。
腕の中から弟を睨むフレデリックの視線は、だがすぐに暗闇の中に沈んだ。目元を覆う辰巳の温かな手へと、フレデリックのそれが重なる。
「……ッ、辰巳?」
「打ち上げだっつってんのに、いつまでも駄々こねてんじゃねぇよガキかてめーは。イヴォンの方がよっぽど大人だろぅが」
「なっ!」
目元を覆っていた大きな手が、フレデリックの額をべちりと叩く。そんなふたりの遣り取りに、他の面子が苦い笑いを零したことは言うまでもない。
が、一部から反感の声が上がる。
「おいおい辰巳、イヴが大人だってのは、語弊があるだろう。撤回しろ」
「ああ?」
言いながら、イヴォンの頭をぽすぽすと叩くヴァレリーに、辰巳は苦笑を漏らした。並んで立つふたりの外見が、親子のように見える。
「ガキ扱いすんなって言ってんだろ!」
頭に乗った手を叩き落そうとしたイヴォンの手は、だがヴァレリーの大きな手に捕らえられた。
「すぐに手をあげるのは、お前の悪い癖だな。甘やかしてやってるのに可愛げもない」
ヴァレリーは、細い腕を引きあげたかと思えばイヴォンの躰をあっさりと抱き上げた。
「ちょっ、何すんだよっ!」
「騒ぐな。落とすだろう」
「じゃあ降ろせよっ」
ジタバタと手足をばたつかせるイヴォンを横目に、ヴァレリーは辰巳を見遣った。
「ほらな?」
あたかもどこが大人だとでも言いたげな態度に苦笑が漏れる。
「そりゃあお前のせいだろ」
言い放つ辰巳に肩を竦め、ヴァレリーはイヴォンを見上げた。
「そうなのか?」
「そうだよ!」
「甘やかしてやってるのに何が不満だ」
甘やかし方に問題があるとは、どうやら気付きもしないらしいヴァレリーをイヴォンは睨んだ。とはいえど、こうしてヴァレリーの腕の中にいるのは嫌な気分じゃない。
「人前でこういう事すんのやめろよな……」
もはや諦めたイヴォンは、些か勢いを失った声でヴァレリーの耳元に囁いた。恥ずかしくて顔を上げるのも一苦労である。
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