48人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
「やあロラン。準備を任せてしまってすまなかったね」
出迎えたロランに、フレデリックがにこやかに微笑む。他にも、既に幾人かがメインフロアで面々を出迎えた。
窓際に適度な間隔で配置されたソファとテーブルはどれも座り心地が良さそうなもので、各々は自由に腰を下ろした。
◇ ◇ ◇
「給仕はうちの者に任せて、お前も飲めよ、ロラン」
「ありがとうございます。では、遠慮なくお言葉に甘えるといたしましょう」
ソファに腰を下ろしても、膝の上にイヴォンを乗せたままのヴァレリーの向かいにロランは腰を落ち着けた。
「ところでヴァレリー、それはいったい何の余興です?」
「たまには甘やかしてやろうと思ってな」
「……はあ」
些かならず顔の赤いイヴォンを見、次いでヴァレリーを見たロランは軽く肩を竦めた。
――まったく、相変わらず何を考えているのやら。
そんな事を思いつつ、差し出されたグラスをロランは受け取った。
「その後、手の調子は如何です? イヴォン」
「平気。痛みもないし、違和感も全くない」
「そうですか」
フレデリックがイヴォンの手を撃ち抜いたのは、数ヶ月ほど前のことだ。イタリアとの一件に乗じて“おイタ”を仕出かしたヴァレリーへの仕返しに、フレデリックはヴァレリーとイヴォンを撃った。
「まあ、下手な神経は傷つけていませんでしたしね」
「そんなの偶然だろ?」
「さあ、どうでしょうか」
穏やかに微笑むロランには、到底偶然とは思えない。否、そうでなければフレデリックが致命傷を負わせない事などあり得ないのだ。
静かにグラスを傾けるロランを、イヴォンはじっと見つめていた。
「そんなに見つめられると、穴が空いてしまいそうですね」
「あんたとヴァルって、昔付き合ってたんだよな?」
「ええ」
「何で別れたの?」
「そうですねぇ……、強いて言えば、付き合いきれなくなった。というところでしょうか」
「それって答えになってなくね?」
些かムッとした様子のイヴォンに、ロランは小さく笑う。他にも言いようはあるが、さすがに本人を前に口にすれば、機嫌を損ねる事だろう。
――まあ、それはそれで構わないですがね。
今さらヴァレリーの機嫌を損ねたところで、ロランにとって害はない。いやむしろ、他人がいるからこそせめてもの情けで気を遣っているのであって、ヴァレリーと二人きりともなればロランには何を言うにも躊躇いなどなかった。
「私はてっきり、あなたには敵視されるものだと思っていましたけれど」
「まあ、正直ムカついてはいたけどさ……」
バツの悪そうな顔で頭を掻くイヴォンは、だがすぐに顔を上げた。
「けど、ロランはさ、ヴァルが撃たれた時すぐに来てくれたじゃん。輸血もしてくれたし……」
「それは、私ではなく、辰巳さんにお礼を言うべきでは?」
「そうかもしれないけど、ヴァルが起きるまで居てくれたじゃん。それに、あんたが居なかったら、俺は何も出来なかったから……」
感謝してる。と、真っ直ぐに告げられる言葉が、ロランには痛かった。
――参りますね。
最初のコメントを投稿しよう!