Impossible n'est pas français.

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Impossible n'est pas français.

 フランス、コルス島の南東に位置する港町、バスティア。様々な船が往き交う港には、三人の男たちが船の到着を待っていた。観光客とも、はたまた地元の漁業関係者にも見えない男たちは、良くも悪くも人目を引いた。  港に不似合いなスーツ姿の男たちが目を引くのは、何も格好だけが理由ではなかった。それぞれが均整の取れた体躯を持ち、顔立ちも整っている。  長めの黒髪と、シルバーともグレーともつかぬ不思議な色の瞳を持った男の名は、ヴァレリー(Valéry)トラントゥール(Trantoul)。三人の中では最年長である。ここ、バスティアを拠点とするフランスマフィアのボスだ。意図的に着崩された胸元が、男らしい魅力とアウトサイダーらしい危うさをバランス良く醸し出していた。  ヴァレリーを挟むようにして立っているのは、どちらも金髪碧眼のフランス人で、僅かな身長差と服装を除けば双子と見紛うほどに似た容姿の持ち主だ。  明るい色合いのスーツを身に纏い、どこかの絵画から抜け出してでも来たような貴族然とした雰囲気を纏う男の名はフレデリック(Frederic)ヴァンサン(Vincent)。五十も目前と年齢を聞けば、驚くに違いない若々しい相貌を持ち、自他共に認めるナルシシストである。ヴァレリーと同じく、フランスマフィアのアンダーボスという肩書きを持っているが、こちらは本土にあるニースを拠点とする別組織の人間である。  フレデリックとは対照的に、ダークスーツに身を包んだ男の名は、ロイク(Loic)ヴァシュレ(Bachelet)という。肩書としてはフレデリックの部下にあたるが、年齢はフレデリックよりも一年ほど年上である。ニースを拠点とする組織のメイドメンバーである彼もまた、フランスマフィアの一員である。  同じフランスマフィアといえど、拠点が違えば手を組むことはない。だが、フランスマフィア双方は、フレデリックとヴァレリーが友人同士という事もあり、イタリアンマフィアから利権を巻き上げるために共闘を果たした。今回は、その打ち上げをしようというのである。  穏やかな気候と、美しい海が人気の観光地に不釣り合いな彼らは、当然周囲の視線を集めた。特に、女性の。  観光客と思しき二人組の女性にフレデリックがにこりと微笑めば、嬉しそうに女性たちが近付いてくる。 「あの、お時間あればお茶でもご一緒しませんか?」 「キミたちのような素敵な女性からのお誘いは嬉しいけれど、残念ながら僕たちは人を待っているところでね」 「そうですか……」  心底残念そうに顔を曇らせ、離れていく女性たちに軽く手を振るフレデリックへと、呆れたように声を掛けたのはヴァレリーである。 「無駄に構っておいて追い払うなんて、質の悪い男だな」 「いつまでも視線を向けられているより、さっさと追い払った方が早いじゃないか」  好んで目立つ格好をするくせに、鬱陶しそうに宣うフレデリックである。 「まあ、僕が目立ってしまうのは、いつもの事だから仕方がないけどね。……特にロイがいると」  言いながら、フレデリックの視線は間に挟んだヴァレリーを飛ばしてロイクへと向けられた。後半の声が僅かに低いのは、ご愛嬌である。 「ボスの命令で僕はここにいるのであって、決して君に嫌がらせをしてる訳じゃないよ、フレッド?」
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