君と雪の日のこと

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 君と結婚して新しいマンションに引っ越した。あらかた片付けを終え、様子を見に行くと君は玄関で靴をしまっていた。  何やら難しい顔をしてシューズボックス(まぁ、つまり下駄箱だ)をのぞいている。 「どうしたの?」 と聞くと、彼女は眉を寄せたまま僕を見た。 「ねぇ、これなんだけど」 と、言った君の手には黒のローファーが握られていた。 「シワシワだし色も変色してるけど、取っておくの?」 「あ、それは……」 と、言いかけ僕は口を閉じた。  うーん、なんで説明しよう。  十代のあの頃、君が好きで苦しくて何も考えず通学で履いていたその靴を履いて雪の積もる外へ飛び出したこと。  白い雪に散々足跡をつけ、靴も足もびしょびしょにして、足だけ拭いて寝たんだった。  靴の方は濡れたままほったらかしにしていたから、皮が痛んでシワシワになっちゃったんだよ。  と言うか、雪が水だということをすっかり失念していたんだけどね。  もう、遠い思い出だ。  それくらい、それだけ長い間、僕が君に夢中だったと告白してもいいかな? 〈了〉
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